研究課題
太陽系形成初期に,小天体内部で起こった水質変質や熱変成などの化学的プロセスは,始原的な隕石に含まれている複雑・多様な有機物の最終的な化学組成・構造の形成に重要な役割を果たしたと考えられる。研究代表者らやその他のグループによる,隕石有機物分析や実験的研究により,微惑星での有機物の形成・進化過程が明らかにされつつある。しかし,隕石の大部分は鉱物が占めているにもかかわらず,有機物の化学的プロセスに対する鉱物の役割(触媒作用等)はほとんど明らかになっていない。その理由として,隕石内の微量な有機物の化学的特徴と鉱物との共存関係をその場分析する手法が極めて限られていることや,実験的裏付けが不足していることが挙げられる。そこで本研究では,最新の顕微分析手法を用いた隕石の分析に加え,模擬実験を行い,有機物に対する鉱物の効果を明らかにする。本研究による成果として,ナノ赤外分光法(AFM-IR)を世界で初めて隕石有機物分析に適用し,数十nmの空間分解能で,有機物官能基と鉱物分布関係を可視化することに成功した。透過型走査X線顕微鏡(STXM)による軟X線吸収分光法(XANES)と高空間分解能二次イオン質量分析法(NanoSIMS)を用いて,隕石の中に捕獲岩として含まれていた始原的物質の微小領域分析を行い,有機物の構造と同位体組成をもとに有機物・水・鉱物の相互作用を考慮し,これらの有機物がD/P型小惑星由来の極めて始原的な物質である可能性を示した。また,隕石有機物の前駆物質アナログと鉱物(かんらん石・フィロケイ酸塩)の加熱実験を行い,これらの鉱物が有機物の脱炭酸などを促進することを明らかにした。以上のように,個別の鉱物が有機物に及ぼす影響を明らかにし,また,隕石中の有機官能基と鉱物の分布を可視化することにより,有機物・鉱物の相互作用を踏まえた物質進化過程解明へのアプローチ基盤を確立した。
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