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2018 年度 実施状況報告書

月との相互作用を用いた太陽風プラズマの流体とサイクロトロンスケールの狭間の研究

研究課題

研究課題/領域番号 18K03727
研究機関東北工業大学

研究代表者

中川 朋子  東北工業大学, 工学部, 教授 (40222161)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2021-03-31
キーワードウェイク / 月 / 太陽風 / 渦 / ホイスラ波 / 沿磁力線電流 / 周波数ドリフト / ダイナモ
研究実績の概要

月周辺の電磁環境は太陽風プラズマの吸収と反射によって決定される。月面が太陽風粒子を吸収することによって月の下流に低密度プラズマ密度の低い領域「ウェイク」ができるが、その境界からウェイク中央にかけて数十秒周期の渦状の流れに相当する磁場変動が観測された。これは地球磁気圏の低緯度境界層のケルビンヘルムホルツ不安定による波と似ていたが、この不安定を起こすような速度シアは見つからず、むしろ流体中の高速移動体にできる剥離渦と同様のメカニズムで生じたと考えられる。ウェイク境界の激しい密度勾配によりプラズマ速度がウェイク中央に向い渦が発生すると考えられる。さらに本研究によりこの渦が速度4000km/sを超える沿磁力線電子流を伴うことが発見された。磁場に垂直な渦運動が電場を誘導し、それによって電荷が渦中心にたまり、それを解消するように沿磁力線高速電子流が生じて電流系を閉じていることがわかった。つまり、月は、太陽風の流れの中に存在するだけでダイナモ発電を行っているといえる。
一方、太陽風に晒される月の昼側では、月の固有磁場による太陽風の反射が波の主要な励起源となる。しかし、強い固有磁場のない北極域で、極に近づくにつれて数ヘルツから1ヘルツへ周波数が下がってゆく磁場変動が発見された。この波は波数ベクトルが磁場に平行で、右回り偏波であることからホイッスラー波であることがわかった。その励起には固有磁場による反射のような方向の揃った粒子ではなく、広い角度への反射や吸収を考える必要がある。荷電粒子が狭い粒子源から広い角度に放出されたと考えると、粒子源の直上では粒子は磁力線に平行な速度を持ち低周波のホイッスラー波とサイクロトロン共鳴でき、粒子源から離れたところでは斜めの速度になり高周波の波でないと共鳴できないことから、観測されたような周波数ドリフトを説明することが可能と考えられる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

4: 遅れている

理由

かぐや衛星によって発見された4つの現象 1) 深ウェイク中のELF波、2) 極域上空の周波数ドリフトのあるELF波、3) 昼夜境界上の微細リム圧縮イベント、4) ウェイク内の渦状磁場変動について、かぐや衛星による磁場・粒子観測のデータを解析するとともに、プラズマ速度分布をモデル化した粒子シミュレーションを行い、これらの波の発生機構を明らかにする予定であったが、2) 4)について進捗があったもののここまでの理解について論文の執筆が遅れていることに加え、シミュレーションに使用していた既存のワークステーションの不具合が生じプラズマ速度分布をモデル化したシミュレーションコードの開発が遅れたことにより 1) 3)の発生機構の解明が進んでいないため。

今後の研究の推進方策

1)深ウェイク中のELF波は、昼側月面で反射されたプロトンが深ウェイクに飛び込んだ「タイプⅡエントリープロトン」とともに観測され、このプロトンに向けて沿磁力線電子ビームも走っていることから、波の発生機構としては双方向電子流による不安定やイオンと電子の運動の違いによる不安定が考えられる。かぐや衛星MAP-LMAGによる磁場観測にもとづき、波のkベクトルの向きを調べ、ワイベル不安定か変形2流体不安定か判別するとともに、プラズマ速度分布をモデル化した粒子シミュレーションを行い、波の発生機構を明らかにする。
2)極域上空の周波数ドリフトのあるELF波は、局所的なソースから広角度へ反射する粒子を考えると、定性的には説明できるが、定量的な検証が必要である。粒子シミュレーションによりこれを確認する。
3)昼夜境界上の微細リム圧縮イベントは、継続時間が非常に短く、磁場の圧縮を起こしたと考えられる障害物のスケールを推定すると15km以下と非常に小さくなり、ショック状の構造を作れるのか疑問である。かぐや衛星MAP-LMAGによる磁場観測、MAP-PACEによる粒子観測に基づいて月面上の位置を逆算し、障害物の候補を探すとともに、衛星高度では観測にかかっていない重いイオンの役割があるか調査する。
4)ウェイク内の渦状磁場変動は、流体的に渦が発生し、そのダイナモ効果により沿磁力線電流が生成されると考えられるが、渦中の電荷の蓄積が実体としてあるのか、また沿磁力線の双方向ビームは状況として1)の深ウェイク中の現象と似ているが、同じようなELF波が発生しているかについても観測に基づいて調査する。

次年度使用額が生じた理由

論文出版が遅れたため出版経費が未使用であること、当初購入予定であったものと同等以上のメモリを持つワークステーションが廉価で購入できたこと、シミュレーションコード開発の遅れにより学生謝金が支出されなかったことが主な要因である。
出版費、謝金は予定通りに使用し、物品費はワークステーションの追加導入を予定している。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2018

すべて 学会発表 (2件)

  • [学会発表] 太陽風中の月ウェイク境界の渦による沿磁力線電子流2018

    • 著者名/発表者名
      中川 朋子, 澤里優海, 志賀友輔, 綱川 秀夫, 斎藤 義文
    • 学会等名
      日本地球惑星科学連合2018年大会
  • [学会発表] 月の極域で観測された1-12Hzの磁場変動の周波数降下について2018

    • 著者名/発表者名
      中川朋子, 綱川 秀夫
    • 学会等名
      第144回地球電磁気・地球惑星圏学会

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公開日: 2019-12-27  

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