研究課題/領域番号 |
18K03727
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研究機関 | 東北工業大学 |
研究代表者 |
中川 朋子 東北工業大学, 工学部, 教授 (40222161)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 月 / ウェイク / プラズマ / 磁場 / ホイッスラー波 / ELF / 反射粒子 / 沿磁力線電流 |
研究実績の概要 |
本研究は月による太陽風の吸収や反射によって励起される未解明の諸現象(1)深ウェイク中のELF波、(2)極域上空の周波数ドリフトのあるELF波、(3)昼夜境界上の微細リム圧縮現象、(4)ウェイク内の渦状磁場変動、の発生メカニズムを解明することを目的としている。今年度は以下3項目について重点的に研究を実施した。 (1)昼側月面で反射されたプロトンが深ウェイクに飛び込んだ「タイプⅡエントリープロトン」に伴って観測されるELF波の発生機構には、このプロトンに向けて磁力線に沿って走る双方向電子流が重要な役割を果たしていると考えられる。発生機構の候補として、電子とイオンの「磁場を横切る速度」の差で生じる「変形2流体不安定」と、密度や圧力の境界を支える「電流」によって励起される「低域混成ドリフト不安定」が挙げられる。ELF波の伝搬方向を調査した結果、イオンの速度ベクトルの方向と平行になる例が見つかり、「変形2流体不安定」による励起が示唆されたが、磁場変動が1次元的であったため、伝搬方向を正確に求めることが難しく、結論を出すにはまだ不十分と考えられる。 (2)強い固有磁場のない北極域で、極に近づくにつれて数ヘルツから1ヘルツへ周波数が下がってゆくホイッスラーモード波について、観測されたような周波数ドリフトを説明するためには、荷電粒子が狭い粒子源から広い角度に放出される必要がある。そのためかぐや衛星によって同時に観測されたプラズマ速度の角度分布の調査を開始した。波が観測されている期間中に、反射する方向の粒子の角度が系統的に変化している例が見つかり、上述のシナリオで説明がつくか定量的な検討の途中である。 (4)ウェイク内の磁場変動が、高速流の中の障害物背後の渦の回転と同じ方向の偏波を示す現象について、渦中心に集まる電荷を解消する沿磁力線電流量と電圧を見積もり、発電量が約0.4MWであることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
かぐや衛星のプラズマ粒子観測データ解析を優先し、プラズマ速度分布をモデル化したシミュレーションコードの開発が遅れているめ。
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今後の研究の推進方策 |
1)タイプⅡエントリープロトンに伴うELF波については、磁場観測にもとづく波のkベクトルの向きに加えて、粒子観測による電流の向きを調べ、変形2流体不安定か低域混成ドリフト不安定化の判別を行うとともに、プラズマ速度分布をモデル化した粒子シミュレーションを行い、波の発生機構を明らかにする。 2)極域上空の周波数ドリフトのあるELF波について、反射粒子速度ベクトルの方向解析を進め、励起シナリオの定量的な検証を行う。 3)昼夜境界上の微細リム圧縮イベントは、継続時間が非常に短く、磁場の圧縮を起こしたと考えられる障害物のスケールを推定すると15km以下と非常に小さくなり、ショック状の構造を作れるのか疑問である。かぐや衛星MAP-LMAGによる磁場観測、MAP-PACEによる粒子観測に基づいて月面上の位置を逆算し、障害物の候補を探すとともに、衛星高度では観測にかかっていない重いイオンの役割があるか調査する。 4)ウェイク内の渦状磁場変動も含め、これらの成果の論文出版を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文出版が遅れたため出版経費が未使用であること、初年度に購入予定であったものと同等以上のメモリを持つワークステーションが廉価で購入できたこと、学生謝金が支出されなかったことが主な要因である。出版費、謝金は予定通りに使用する。最終年度に予定していた国際会議が1年延期となってしまい、これ以外の会議も中止や延期が相次いでおり、発表形態を再検討する必要がある。
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