研究課題
近地球小惑星の物理進化と力学進化を結合し、太陽系内の物質輸送に関する俯瞰的描像を得るための観測的・数値的研究を継続して実施した。当該年度はコロナウィルス禍のために国内外の観測施設に出向いての観測活動はできなかったが、遠隔地からの操作によるリモート観測および過去に取得された観測データの解析を一部実施できた。また小天体の軌道伝播に関する数値しミューレションはコロナウィルス禍に関わらず実施できるので、これは計画通りに遂行した。観測的研究に関しては活動的小惑星(3200) Phaethonの分光観測および測光観測の結果を詳細に分析し、論文出版にまで至った。Phaethonは小惑星と彗星の両方の性質を持ち合わせる天体であり、活動性を持ち、流星群の母天体でもあることから太陽系科学的に研究価値が大きく、日本の宇宙機関も探査ミッションを計画している。私達の分光観測からはこの天体のスペクトルの傾きが時間変化(0.55μmを中心とすると-5.0から0.6%/0.1μm)し、スペクトル方がB型からC型へ時間変化することを見出した。即ちこの天体の表層には組成の不均一性が存在し得る。小天体の軌道伝播に関しては、太陽系最外縁にあるオールト雲から落下して惑星領域に突入する新彗星の軌道進化の数値シミュレーションを実施した。私達は2つの力学モデルを組み合わせ、オールト雲を出た彗星の力学的経路を数億年に渡り追い掛けた。主な結論は以下の二点である。(1)惑星領域内での彗星の典型的な滞在時間は1000万年程度である。(2)彗星の軌道傾斜角が小さい場合にはいわゆる「惑星バリア」が有効に働き、彗星が地球の惑星領域に侵入するのを防ぐ。こちらの結果については現在論文を執筆中である。
3: やや遅れている
当該年度に実施する予定だった観測研究の一部がコロナウィルス禍による国外旅行の困難により実施できなかった。一部はリモート観測により現地職員に実施を依頼したが、予定されていた全てを実施することはできず、この部分が遅延している。
数値シミュレーションを用いる研究についてはほぼ当初の研究計画に沿っているが、これまで得られた数値結果をまとめた論文を早急に投稿する。観測研究についてはコロナウィルス禍による遅延をなるべく取り戻すべく、国内外の共同研究者の支援を得て鋭意の推進を行う。
当該年度のコロナウィルス禍の発生により、国内外で行うべきだった観測研究が実施できなかった。そのために旅費が余剰し、かつ観測データを収容すべきデータストレージの購入も見送らざるを得なかった。次年度は遅れを取り戻すべく一連の観測研究の完遂を企画すると同時に、データストレージの選定を購入を実施する。
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すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 5件)
Planetary and Space Science
巻: 191 ページ: 104940
10.1016/j.pss.2020.104940