研究課題/領域番号 |
18K03733
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
三谷 烈史 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 助教 (70455468)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | あらせ / 高エネルギー電子 |
研究実績の概要 |
本研究では、地球周辺の宇宙空間「ジオスペース」において高エネルギー電子が生成・消滅する過程を明らかにするため、2016年12月に打ち上げられたジオスペース探査衛星のデータ、特に、70 keV - 2 MeVの高エネルギー電子を連続的に観測する「高エネルギー電子分析器(HEP)」のデータを利用する。このために、軌道上でのHEP観測データと地上での検出器シミュレータにより、分析器のエネルギー・角度の応答関数を構築することを目的としている。 今年度は、Geant4と呼ばれる、粒子と物質の相互作用をシミュレーションするためにCERNが開発したソフトウェアライブラリを用いて、検出器シミュレータを構築した。まず、機器設計段階でコリメータや検出器の形状を決めるための評価に用いた簡易モデルを更新し、シリコン半導体積層モジュールのフライト品相当のモデルを構築した。さらに、筐体を貫通して検出器にて検出されてしまうバックグラウンドの評価を実施するために、上記モジュールをフライト品と同様に配置し、そのまわりの構造物も構築した。次に、シミュレータの評価作業として、幾何学的因子の計算といくつかのエネルギーにおいて単色の電子線を入射して、そのエネルギー・角度応答を評価し、概ね妥当であることを評価した。 さらに、シミュレーションと詳細に比較できる実験データを得るために、衛星搭載品と同等の積層シリコン半導体センサモジュールを製作した。フライト品はエネルギー計測範囲の異なる2種のセンサモジュールHEP-LとHEP-Hそれぞれ3台から構成されるが、フライト予備品として残っている半導体素子を用いて、HEP-L2台、HEP-H2台の組立を行った。そして、HEP-L/HEP-H 各1台を用いて、電子ビーム照射試験を行った。特に、フライト品で評価が十分にはできなかった100-300keVの電子照射も実施することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に計画していた、シミュレータの構築・地上試験用モジュールの製作・それを用いた電子ビーム照射試験、を進めることができた。シミュレータの評価としては初期的な動作評価のみ実施し、試験データとの差異評価やその起因する箇所の追求などは進行中である。また、軌道上データを評価するなかで、3MeV程度の電子が筐体を突き抜けて生じるバックグラウンドの寄与を評価する必要があり、その計算・評価を進めた。地上試験用モジュールは、電子ビーム照射を行うために必要なHEP-L/HEP-H 各1台の製作を完成できている。残り1台ずつは初期動作確認において、期待された動作が一部確認できていないので、今後の追試験・改良を計画している。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に構築したGeant4シミュレータと電子ビーム照射試験の整合性評価を進める。特に検出されるエネルギー分布と角度分布の再現性を評価し、差異がある点について、その要因を突き止め、シミュレータの確認・改善を実施する。初年度の電子照射試験では、角度応答・エネルギー応答を計測するために、コリメータを含む検出器モジュールを用いたが、エネルギー応答のみを確認していくために、コリメータを外し、電子線源を照射することを検討している。また、周りのケースを通過してくる高エネルギー電子によるバックグラウンド評価を継続し、連続エネルギー分布をもつ電子を入射し、どのような影響があるかを評価していく。 HEP-L/HEP-H 残り各1台について動作が確認出来ていない点について、追試験・改修をくわえ、動作させる。インターフェース回路部に問題があるところまでは特定できているので、その箇所の信号をモニタすることにより原因箇所を特定する。それを用いて、上述のコリメータ無しでのエネルギー応答を取得し、シミュレータの確認作業に供する。
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次年度使用額が生じた理由 |
地上試験用モジュールの製作費が想定より安く済んだために次年度使用が生じたが、2019年に研究を進めるうえで必要な製作費等で有効に使用する予定である。候補としては、地上試験用モジュールを製作するために既存のものを少し強引に改修して使用している部分があるので、その点を改修すること、エネルギー応答を確認するための線源照射試験に必要な物品の購入、シミュレーション用計算機の補強などを検討している。
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