研究課題/領域番号 |
18K03736
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
上野 洋路 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (90421875)
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研究分担者 |
三寺 史夫 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (20360943)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 塩分躍層 / 海面塩分 |
研究実績の概要 |
海洋の塩分躍層は、塩分が深さとともに急激に増加する層のことであり、北太平洋亜寒帯域では、成層構造や混合層深度の決定に重要な役割を果たしている。2018年度では、冬季混合層下の塩分躍層に注目し、その全球分布と経年変動を明らかにすることを目的として研究をおこなった。 本研究ではまず、観測年や観測手法によって異なる水温、塩分プロファイルの鉛直解像度を均質化し、塩分躍層強度や深度の人為的変動を抑制する手法を開発、米国海洋大気庁World Ocean Databaseの水温、塩分データに適用した。また、塩分躍層強度として、各プロファイルの10-300m深における各層の塩分鉛直勾配の最大値を採用し、最大値をとる深度を塩分躍層深度と定義した。このデータ、定義を用いて塩分躍層強度、深度を計算したところ、明瞭な塩分躍層は、北太平洋亜寒帯域、北大西洋西部亜寒帯域、全球の熱帯海域、南極海域に分布していることが示された。また、塩分躍層強度と海面塩分の分布相関解析を行ったところ、有意な負の相関が得られ、強い塩分躍層は海面塩分が相対的に低い海域で発達していることが明らかになった。 塩分躍層は、その強度および深度において大きな振幅で年々変動していることも示された。また、ほとんどの海域において、塩分躍層強度の年々変動は、海面塩分の年々変動と負の相関を持つことが示された。これは、塩分躍層の空間分布と同様に、海面塩分が低い年に塩分躍層が強化されているという傾向であり、淡水フラックスの経年変動の塩分躍層強度への影響が示唆された。しかし、アラスカ湾では海面塩分が高い年に塩分躍層が強化されるという他の海域とは異なる結果が得られ、塩分躍層の経年変動には、複数のメカニズムが関与していることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度では、本研究の主要な目的である「塩分躍層の時空間変動(水平分布、季節経年変動、長期変動)の実態の把握」に取り組んだ。その前提として、解析に適したデータセットの作成が必要であったが、「研究実績の概要」で記述したように、塩分躍層強度や深度の人為的変動を抑制する手法を開発、塩分躍層の時空間変動の検討を可能にした。このデータを使用することにより、塩分躍層の時空間変動のうち、空間変動と経年変動に着目した解析を行い、空間躍層強度の空間分布は海面塩分と強い負の相関があり、海面塩分が低い海域ほど塩分躍層強度が強いこと、塩分躍層強度の経年変動に関しては、おおむね海面塩分が低い年に塩分躍層強度が高く、蒸発・降水が塩分躍層強度の経年変動を支配している可能性があることなどを指摘した。また、アラスカ湾のみでは、海面塩分が高い年に塩分躍層強度が高く、蒸発・降水以外のメカニズムによって塩分躍層の経年変動が変動しているという非常に興味深い示唆を得ることができた。このことから、本研究課題は、おおむね順調に進展していると考えられる。 塩分躍層の時空間変動のうち、長期変動に関しては、データ解析を慎重に行った結果、本研究の対象から外すこととした。その理由は、ごく一部の長期連続観測が実施されている海域を除き、塩分躍層の有意な長期変動を検出することが困難だったことである。アラスカ湾のLine-P、日本南方の137°E観測ラインなど、長期連続観測が実施されている海域では、個別に塩分躍層も含んだ長期変動の解析が実施されており、長期連続観測海域に限った検討は新規性に欠けると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本研究の当初の対象である北太平洋に焦点を絞り、検討を行っていく計画である。まずは、アラスカ湾の塩分躍層の経年変動メカニズムについて検討を行う。2018年度の研究において、塩分躍層強度の経年変動に関しては、おおむね海面塩分が低い年に塩分躍層強度が高く、蒸発・降水が塩分躍層強度の経年変動を支配している可能性があるが、アラスカ湾のみでは、海面塩分が高い年に塩分躍層強度が高く、蒸発・降水以外のメカニズムによって塩分躍層の経年変動が変動しているという結果を得ている。アラスカ湾は、閉じた亜寒帯循環で、塩分躍層が密度躍層に対応していて、その存在深度が浅いことから、風応力の回転成分が塩分躍層に影響を与えている可能性が考えられる。そこで本研究では、風応力の回転成分の経年変動と、塩分躍層の強度・深度、さらには混合層深度の経年変動の関係を調べることで、アラスカ湾における塩分躍層強度の経年変動メカニズムを明らかにしたい。 表層~亜表層の水温・塩分成層が生物生産の経年変動に影響を与えていることは、縁辺海陸棚域で指摘されている。本研究では、北太平洋全域において同様の検討を行い、塩分躍層の変動が生物生産に与える影響を明らかにする。中でも、塩分躍層・成層の強化が、躍層以深の栄養物質の表層混合層への輸送を大きく低下させる可能性がある「水温・塩分成層が比較的弱い海域(例えばベーリング海海盆域)」に注目し、塩分躍層・成層の変動が生物生産へ与える影響とそのメカニズムを調べる計画である。さらに、数百キロメートルより小さい水平スケールの塩分成層分布を明らかにするため、本州東方沖の海洋観測を実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度に実施したデータ解析が比較的限定的なものであったため、物品費が当初予定より少なくなった。2019年度は研究の進捗に合わせ、必要な物品を購入する。
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