研究課題/領域番号 |
18K03738
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
稲飯 洋一 東北大学, 理学研究科, 助教 (50587623)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 北極上部対流圏下部成層圏 / 大気輸送 / 物質分布 / 季節変動 / 流跡線解析 |
研究実績の概要 |
最下部成層圏(LMS)の大気微量成分やエアロゾルなどの物質は、北極域の大気の放射バランスに重要な役割を担っている。それらの分布や変動メカニズムの理解が求められているが、その変動には「大気輸送場の変動」と「輸送されてくる大気に含まれる物質量の変動」とが重畳されておりこれらを同時に理解することは容易ではない。 本研究ではこれらの「大気輸送場の変動」と「輸送されてくる大気に含まれる物質量の変動」を分離しながらそれぞれを個別に評価する方法を開発し、変動要因を吟味することで北極域LMSの物質分布変動の実態を明らかにすることを目的として進めてきた。 2018年度は、2012年以降の期間についてLMS領域の大気塊がどこからLMSへ流入してきたかについて全球再解析データを用いた後方流跡線解析により推定した。さらにそれぞれの空気塊についてラグランジュ保存量である温位、渦位、等価緯度の値に注目しながら低緯度、中緯度、高緯度対流圏起源の空気塊と成層圏起源の空気塊に分類し、それぞれの領域を起源とする大気のLMSにおける混合割合の季節変動を定量化した。 さらに上記の流跡線解析データにCONTRAILプロジェクトによる日本-パリ間航路を用いた航空機観測データを組み合わせることで、LMSにおける対流圏起源の大気微量成分と成層圏大気の年齢の空間分布の季節変動を推定した。その結果、北極LMS領域におけるメタン、一酸化二窒素、一酸化炭素、六フッ化硫黄、二酸化炭素の季節変動は成層圏を起源とする大気と対流圏を起源とする大気の混合によって決定されていることが示された。さらにメタン、一酸化二窒素、一酸化炭素については先述の混合に加えて成層圏における化学消失過程の季節変動が大きく寄与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
流跡線解析をベースとした上部対流圏下部成層圏における大気起源、成層圏大気の年齢、大気微量成分濃度を観測データに基づき推定する手法の開発に成功し、その解析結果をAtmos. Chem. Phys.誌に投稿し、そのopen access discussion paperであるAtmos. Chem. Phys. Discus.誌に公表することができ、近くAtmos. Chem. Phys.誌でも公表できる見込みであるため。
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今後の研究の推進方策 |
上述の通り研究手法が確立できつつあるため確立を急ぐとともに、これを応用した研究を展開していく。現段階での想定としては、上部対流圏下部成層圏における同位体観測への応用、年々変動の推定、解析領域の拡張などを考えている。また解析精度の向上とより詳細な議論のため使用している航空機観測データの誤差評価も行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
解析に用いた全球気象データとして比較的容量の小さなデータを選んだことにより解析用計算機として現有のものを充てることができたため。これについて、今後大容量データを本格使用する際にはより高性能の計算機を調達する予定である。また今年度の研究成果の発表として参加した国際学会が翌年度に開催されるものであったため。これについては、すでに翌年度分旅費として使用済みである。
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