ヨウ素エアロゾルは地球温暖化などに影響を与える要因であるが,その生成源となる大気中のヨウ素化合物の生成過程の定量的な評価は十分になされていない。大気中に生成されるとヨウ素エアロゾル生成を引き起こす気相ヨウ素分子の大気中への生成・放出の新たな過程として,海洋中のヨウ化物イオンの光分解が一つの候補として考えられる。本研究では,この過程による気相ヨウ素分子生成量の水素イオン指数,溶存酸素量,ヨウ化物イオン濃度,水深など海洋条件における各パラメータ依存性について高感度分光測定法を用いた実験的決定の研究を行い,この過程が実際の大気へ与える影響力についての正確で高精度な定量的評価を行うことを目的としている。研究3年度目においては,前年度に引き続き,定量化を計画している最後のパラメータである水深についての気相ヨウ素分子生成量との依存性の調査を目的とした。前年度の研究により発覚した測定方法の問題点を洗い出し,その点を解消できる新たな実験装置を設計した。その後,照射光強度の大幅な増加,照射槽での溶液の調整可能な攪拌,捕集槽における気相ヨウ素分子の漏れのない捕集などを可能とした実験装置を実際に作成した。作成した実験装置を用いることで,これまでより高精度に低濃度の気相ヨウ素分子生成量の測定を行うことが可能となり,水深と気相ヨウ素分子生成量の間の関係性を明らかにできることを確認した。今後,研究期間終了後も引き続き様々な条件での測定を行い,水深依存性についてのパラメータ化を行っていき,それらの結果をまとめて論文とした発表することを予定している。なお,研究期間全体としては,初年度に水素イオン指数,溶存酸素量,ヨウ化物イオン濃度のパラメータの定量化についての研究成果をアメリカ化学会の国際学術誌ACS Earth and Space Chemistryに論文としてすでに報告している。
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