研究課題/領域番号 |
18K03741
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
津田 敏隆 京都大学, 生存圏研究所, 研究員 (30115886)
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研究分担者 |
矢吹 正教 京都大学, 生存圏研究所, 助教 (80390590)
橋口 浩之 京都大学, 生存圏研究所, 教授 (90293943)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | RASS / 気温プロファイル / 赤道大気レーダー(EAR) / ウィンドプロファイラー / 熱帯大気 / 対流圏界面 / GPS電波掩蔽 / 上部対流圏・下部成層圏(UTLS) |
研究実績の概要 |
本研究では、約50 MHzの電波を用いた大型大気レーダー(ウィンドプロファイラー)にRASS(Radio Acoustic Sounding System)技術を適用し、熱帯域の対流圏と成層圏下部における気温と風速の高度プロフィイルを全天候で観測することを目指している。国内のMUレーダー等を用いて開発されたRASS技術を、インドネシア・西スマトラ州に設置された赤道大気レーダー(EAR)に適用した。これまでの研究では、背景風の影響を踏まえて、レーダーのアンテナビームの走査方向を最適に設定する手法を開発し、EAR-RASS観測の効率を向上させた。 その結果、EAR-RASSで地上約1㎞から高度約14㎞まで気温が計測できている。2020年度は、さらに上部対流圏・下部成層圏(UTLS:UpperTroposphere-Lower Stratosphere)に観測高度を拡大することを目指した。インドネシア上空の対流圏界面は高度約17㎞に位置しており、EAR-RASSの測定可能高度の限界に近いが、背景風が弱く安定する時期を選べば、観測可能との見通しをたてた。UTLSでの風速・気温擾乱を数分と150mの時間・高度分解能で観測するという、世界でも前例のない実験を企画した。しかし、新型コロナ禍の影響でインドネシアへの海外出張が制限されたため、現地でのフィールド実験を翌年度に延期することになった。 一方、熱帯域のUTLSの気温変動について、GPS電波掩蔽法による衛星データを活用して研究し、対流圏界面の気温変動、および大気波動による気温擾乱の特性を総括した論文を共同執筆した(Scherllin-Pirscher et al., 2021)。今後、この成果を、EAR-RASS観測による局所点における気温の詳細な時間・高度変動と対比することで、UTLSにおける大気変動を解明する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
前年度の2020年2月にインドネシアに出張し、EAR-RASSによるUTLS観測の実験準備を進めたが、2020年4月より新型コロナ禍により海外渡航が全面的に制限されることになり、年度末まで状況は好転せず、現地でのフィールド実験が実施できなかった。そのため、EAR-RASS観測の概念設計は進めたが、実際の観測データ取得ならびにデータ解析は遅れている。 この状況を補完すべく、UTLS高度におけるグルーバルな気温変動特性を知るために、GPS電波掩蔽を用いた衛星観測データによる研究を行った。この成果は国際的にインパクトの高いジャーナル(AMS、J. Climate)に掲載されており、今後UTLSの研究コミュニティの発展に貢献すると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、EAR-RASS観測に用いる大出力の音波発射器(SPLで約135dB)を製作し、EARのアンテナの中心部およびアンテナ面の周辺に配置した。この強力な音源を用いることで、地表から高度約14㎞までの気温がほぼ定常的に計測できた。さらに、間欠的ではあるが、高度約17㎞の対流圏界面を超えた高度領域まで気温を測定できたケースがあった。このことは、RASS音波は14km以上の高々度まで届いているが、背景風の影響で音波面が変形し、レーダーでRASSエコーが検出できなかったと解釈される。 過去にEARおよびラジオゾンデで観測された風速と気温のアーカイブデータを用いて、RASS音波のレイトレーシングを行った結果、背景風が弱く安定した大気状態では、下部成層圏までEAR-RASSの観測高度範囲を広げられることが分かった。今年度は、気候学的な検討と長期天気予報を踏まえて、RASS観測に適した大気状態が現れる時期を予想し、その時期に合わせてインドネシアに出張し、EAR-RASS実験を行う。これにより、熱帯域の上部対流圏・下部成層圏(UTLS: UpperTroposphere-Lower Stratosphere)における積雲活動や大気波動に伴う風速・気温擾乱を数分と150mの時間・高度分解能で観測し、大気力学現象の特性を解明する。これは世界でも前例のない試みであり、UTLSにおける大気力学過程および大気物質の輸送・混合過程の解明に大きく貢献すると期待される。 なお、汎用のソフトウェア無線機を用いた受信機の開発により、乱流エコー観測については多チャンネル受信が可能な状況となった。これをRASS観測に応用することを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
EAR-RASS実験のためにインドネシアに出張を予定していたが、新型コロナ禍による渡航制限により実施できなかった。そのため、実験計画をほぼ1年余先送りし、今年度の後半に現地での実験を行い、昨年度に企画した予算執行を基本に研究を進めることを予定している。
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