研究課題/領域番号 |
18K03742
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研究機関 | 国立研究開発法人防災科学技術研究所 |
研究代表者 |
大東 忠保 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 水・土砂防災研究部門, 主幹研究員 (80464155)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 積乱雲 / 早期探知 / 雲レーダー / Ka帯レーダー / 偏波レーダー |
研究実績の概要 |
積乱雲発生のなるべく早い段階で雲を検知するためには、レーダーエコーの強度が弱い部分を利用する必要がある。一方で、晴天時、雲の無い状況で弱いエコー(晴天エコー)が現れることがありこれとは区別する必要がある。このため、前年度までに取得されていたデータを利用して晴天エコーがもつ特徴について調べた。その結果、同程度のレーダーエコーをもつ雲と比較すると、偏波パラメータのうちレーダー反射因子差と偏波間相関係数に差があることがわかった。また、晴天エコーの偏波パラメータの特徴は過去の他の波長帯のレーダー観測による報告から、乱流からの反射ではなく、昆虫等からのエコーであると推測された。この特徴的な偏波パラメータを利用することによって、晴天エコーと雲域を区別できる可能性があることがわかった。一方で、晴天エコーのドップラー速度を用いれば、雲生成前の運動場を得られる可能性があることがわかったが、短い送信波長を用いる雲レーダーではドップラー速度の折り返し速度が小さく、この速度折り返しの処理を正確に実施できることが必要である。 夏季には特別な観測モードを用いた集中観測を実施した。昨今の降水レーダーの高時間分解能観測や数値シミュレーションから、積乱雲の時間変動が大きいことが知られているため、積乱雲発生初期においても高時間分解能の観測データを得る必要があることが予想された。しかしながら、雲発生初期の微弱な信号を得るためには時間をかけて信号を積分する必要がある。そこで、観測範囲をオーバーラップさせた3台の雲レーダーを用い、一定区間のみを走査するセクタースキャンを用いることによって1分ごとに立体的データを得る特別観測を8月1日~23日まで実施した。観測期間中の複数の日で観測範囲内で積乱雲が発生したことを確認できており、次年度以降にこれらのデータを解析するとともに、夏季には同様の特別観測を実施する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
変動の大きな積乱雲の初期発達過程を観測するために2分程度の時間分解能で立体観測を実施することを想定していたが、3台のレーダーを利用することで1分間隔の立体観測を実施しデータを取得することができた。2分間でのデータについても実施したが、これらについては3台用いることで想定よりも多くの仰角を得ることができたことと、速度場の3次元分布を得るデュアルドップラーレーダー解析にも利用できるような観測データを取得することができており、当初の計画以上に有用なデータを取得できている。 Kaバンド帯の雲レーダーにおける晴天エコーの出現については当初想定していなかったが、偏波機能を用いることで区別できる可能性があることがわかり、他の波長帯のレーダーの知見から晴天エコーの原因についても推定できたことで、晴天エコーと雲からのエコーを区別できる見通しを立てることができた。 東京スカイツリーに設置してある直接観測との比較については、研究協力者からレーダー反射強度の雲水の関係式について情報を得ている。レーダー反射強度が強い部分に問題があり、関係式が得られていないという状況であるが、その部分については過去の文献からの情報を集めた。 これらの研究を総合するとおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度取得した高時間分解能観測データを用い、雲発達のいかに早い段階で非常に発達する雲とそうでない雲との特徴の差が現れるかについて着目し解析を進める。雲の発達モデルの考察から差が現れると予想される物理量について、既にいくつかについて選択を行った。それらの量の時間、空間分布を抽出する処理方法を作成しその特徴を明らかにしていく予定である。 一方で、高時間分解能観測では領域を絞った観測となるために昨年だけでは事例が多くない。そこで本年についても夏季において複数台のレーダーを用いた高時間分解能観測を実施する予定である。また、実際の積乱雲の発達状況をさらに細かな時間分解能で把握するために、タイムラプスカメラによる観測も利用する予定である。カメラによる観測は雲の表面の状態のみの観測となりレーダーと比較して情報が限定される部分もあるが、レーダーよりも細かな構造をさらに高時間分解能で観察できる利点がある。 一方、現業等に利用される場合を想定すると高価なレーダーを複数台使用することは難しい場合もあり得るため、一台のレーダーのみを用いた観測方法についても検討をする。
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次年度使用額が生じた理由 |
データアーカイブについて所属研究部のサーバーを利用することができることとなり、計画で計上していたファイルサーバーを購入しなかったために次年度使用額が生じた。一方で、計画にはなかったタイムラプスカメラによる観測を試験的に実施したところ、積乱雲構造のレーダー観測の大きなサポートとなることが見込まれたため、次年度、複数箇所で実施する予定である。このための機器購入費として利用する。また、予算の一部は成果発表費用に追加し、学会発表に伴う議論を通じて研究を進展させるとともに、海外を含む最新の研究の動向を得られるようにするために用いることとする。
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