研究課題
昨年度(2018年度)の8月に実施した3台の雲レーダーを用いた観測データの解析を行った。3台のレーダーデータを合成し最大のレーダー反射強度を平面上に投影したデータを作成した。このエコーは、X-RAINと比較して初期の雲を早期に探知できていたことが確認できた。発達する雲と発達しない雲を抽出して違いを調べると、発達した雲においては一定程度投影エコー面積が広くなる傾向がみられた。今後、投影エコーの面積と最大の降水強度との関係等について事例を重ねる。雲・降水と区別する必要がある晴天エコーがたびたび観測されることが1年目の解析でわかっていたが、本年度は、雲・降水エコーと晴天エコーにおいて、偏波観測によって明瞭な違いがあることを示し、さらにその区別に有効なパラメータとそのおおよそのしきい値を示すことができた。夏季、2019年8月2日から9月24日まで、昨年度に引き続き積乱雲に発達し強雨をもたらす雲の発生・発達初期を観測するための特別観測を実施した。雲の時間変動を捕捉するために、3台のレーダーの観測範囲を集中させ1分間で立体的観測を行い、観測事例数を増加させた。加えて、3台のレーダーの観測範囲の和集合全てで積乱雲の発生観測を実施するための観測モードの試行を行った。この観測モードでは、アンテナの回転数を大きくするとともに、2分間かけて観測させることによって、各レーダーの観測範囲が重なっていない領域においても鉛直方向に一定程度のデータが存在するように工夫を行った。これらのレーダー観測において捕捉できないような大きな時間変動についても把握し、実態を捉える必要があるため、本課題の1年目にタイムラプスカメラの試行を実施したが、本年度はこれを拡張し3箇所にタイムラプスカメラを設置した。これは雲の表面のみの観測となるが、積乱雲の発生期における雲頂の発達の時間変動等に注目して今後解析を行う。
2: おおむね順調に進展している
2年間にわたり夏季の3台のレーダーを用いた集中観測を実施することができている。レーダーの故障等があり夏季の早い段階から実施できてはいないものの、積乱雲の早い時間変動を観測できる特別観測モードと、広い領域でなるべく均質なデータを得る汎用化のための観測モードによってデータを得られている。このうち2018年の事例について、発達する雲と発達しない雲の事例を抽出し、その定性的な特徴の違いが少しずつ明らかになってきた。また、理論的に考えた場合に対流雲がどのような特徴をもてば発達するのかについて考察を進めた。これらの特徴が、時間的、空間的に限定され、得られるパラメータの限定されるレーダーから捉えることができるかについては今後解析を進める。この解析には、高時間分解能で取得したタイムラプスカメラのデータの利用も助けになると考えられる。雲・降水観測では不要となる晴天エコーについては、雲・降水エコーとの区別が必要であるが、これについては偏波パラメータを組み合わせたパラメータによって区別できることがわかってきた。この内容については、現在論文にとりまとめており、次年度に論文に投稿できる見通しである。上記の観測、解析結果について国内外の学会で発表を行った。
最終年度である2020年度は、さらに事例を増やすために初年度、2年度目に検討し作成した観測モードを使用した特別観測を再度夏季に実施する。新型コロナ感染症拡大への事業自粛対応のため、レーダーの修理や点検が前年度終了時の見込みよりも現状遅れる見込みであるが、盛夏のなるべく長い期間において観測を予定している。レーダー等の解析による積乱雲の発生期の特徴についての理解は、まだ定性的で解析事例が少ない。レーダーの解析と理論的な検討から、雲が発達する場合に観測されうる可能性のある特徴はわかってきたが、実際の観測には様々な制限がありその特徴が多くの事例で実際に観測できるかどうかはよくわからない。今後はできるだけ事例を増やし、注目すべき観測量に発達する雲としない雲とで十分な差があるかについて明らかにする。初年度から取り組んできた雲・降水エコーと晴天エコーの区別については、偏波観測を用いる方法が有効であることがわかってきた。この事実については論文にとりまとめており、2020年度初頭に論文への投稿を予定している。2019年度末頃からの新型コロナウィルス感染症の世界的な流行によって、発表を予定していたいくつかの国内学会、国際学会が中止や次年度延期となってしまっており、口頭での成果発表の機会が減少するのはやむを得ない状況である。議論を深めるために、研究協力者等との連絡を密にとり研究成果をとりまとめる。また、感染症が落ち着いた段階で発表の機会が得られれば積極的に参加する。
現状、観測データのアーカイブ先として部門の既存のサーバーを現状使用しており、当初初年度に購入を予定していたサーバの購入を見合わせてきた。データの検証や有効利用のために当該課題の最終年度終了以降も観測データ、処理データ、解析プログラムを保管しておく必要が生じるために最終年度において必要数のディスクを購入する予定である。また、研究成果の発表と議論のために学会等集会に参加する予定である。
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京都大学防災研究所年報
巻: 62B ページ: 399-431