観測データに基づき深層循環弱化の証拠を明らかにすることを目的として、太平洋では深層循環の経路に沿って海溝が存在することに着目した観測研究を実施した。海洋地球研究船「みらい」、および、海底広域船「かいめい」を用いて、西部北太平洋、伊豆・小笠原海溝、日本海溝において、高精度船舶観測を実施した。2019年「みらい」航海では、西部北太平洋において、世界で初めて屈折率密度センサーによる深度2000m以深の海水密度測定に成功した。2019年/2020年「かいめい」航海では、伊豆・小笠原海溝、および、日本海溝南端において、センサーを用いた水温・塩分・溶存酸素・濁度・音速・密度の連続鉛直分布、また、採水器を用いた最大36層での採水分析データ(センサー校正用の塩分、密度、屈折率、溶存酸素に加え、密度関連成分である栄養塩、全炭酸、アルカリ度)の取得に成功した。これらの航海間の塩分・溶存酸素データの比較可能性を高度に確保するために、塩分測定用国際標準海水(IAPSO標準海水)のバッチ間オフセットの評価、および、マルチパラメータ標準海水を製作・評価した。評価したバッチ間オフセットを用いて北太平洋深層の塩分測定値を補正した結果、長期(20年)に渡る低塩分化トレンドの検出に初めて成功した。北太平洋深層の昇温は、深層循環の弱化に起因した等密度面の降下で説明されてきたが、その場合、水塊特性(水温-塩分関係)は変化しない。しかし、本研究で検出した等温度面上の低塩分化トレンドは水塊特性の変化を表す。これは、氷床融解で低塩分化した南極周辺の深層水が、深層循環により北太平洋深層に運ばれたものと説明できる。開発したマルチパラメータ標準海水を用いてIAPSO標準海水の経時変化の補正することで、高精度塩分測定値に基づく気候変動モニタリングが可能になった。
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