本研究は、世界の海洋の沿岸湧昇域の中でほとんど観測データが得られていなかったスマトラ・ジャワ島南西部における冷水の沿岸湧昇、またそれに関連する大気海洋相互作用を調査し、インド洋規模の短期気候変動現象(インド洋ダイポール現象:IOD)との因果関係を検証することを目的とした。 前年度までの研究期間(2018~2022年度)において、ジャワ島やスマトラ島の南西部における沿岸湧昇発生時の水温や塩分の鉛直構造、およびそれらの時間変動を明らかにした。また、自ら整備して誤差評価を行った衛星観測の海色データをこの沿岸湧昇の発生の指標として活用して、ジャワ島沖の沿岸湧昇の発生日を同定し、その後の IOD 発達に関連する大規模な大気海洋相互作用との関係を明らかにした。特に、IOD に数ヵ月程度先行して系統的に発生していた沿岸湧昇のシグナルを見いだし、それに伴う大気海洋相互作用によって沿岸湧昇の冷水が外洋に向けて拡がり発達する過程を示すことができた。これらの成果を学術誌に発表し、また本研究の主な成果を一般向けの解説にまとめて海洋研究開発機構 (JAMSTEC) からプレスリリースを行った。 最終年度(2023年度)は、これまでの沿岸湧昇に関わる研究成果を発展させ、この沿岸湧昇の発生時期がインド洋の温暖化にともなう風系の変化によって長期的に早まっている点を示した。この新たな研究成果を学術誌に発表することができた。 以上のように、本研究は当初の主な目的であった沿岸湧昇と IOD 発生との因果関係をデータ解析から示すことができた。すなわち、早期の沿岸湧昇のシグナルを把握することで、IOD の発生を予測できることを見いだした。これは世界の気候に影響するインド洋起源の短期気候変動現象の予測性向上に貢献する成果である。
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