研究課題/領域番号 |
18K03762
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
白井 正明 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 准教授 (50359668)
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研究分担者 |
宇津川 喬子 立正大学, 地球環境科学部, 助教 (20822711)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 自然災害 / 南海トラフ地震 / 巨大土石流 / ハイパーコンセントレイテッド流 / 堆積物 |
研究実績の概要 |
本研究では安倍川上流域に分布する,江戸時代の大谷崩の大崩壊によって形成されたとされる堆積物を主対象として,(A) 土石流から遷移して発生したハイパーコンセントレイテッド流(hyperconcentrated flow: HCF)堆積物中の,礫の3次元的な配列や形状から,礫の運搬様式を明らかにする,(B) 礫~砂粒子試料の円磨度を,岩種とサイズを揃えた上で測定し,円磨度をより実用的な運搬作用のパラメータとして利用できないか試みる,(C) 土石流とHCFでは駆動様式が異なることに着目し,HCF堆積物の分布を再検討する,また安倍川流域での経験を基に,(D)中部山岳の他地域で大規模なHCF堆積物の痕跡を探す,以上4点を目標にしている. 2018年度は安倍川上流域で現地調査を数回に分けて行い,主に目標(A)に関連してHCF堆積物の礫の配列の特徴(長軸の方位)を記録した.その結果細粒層と粗粒層の繰り返しからなるHCF堆積物のうち,粗粒層の下位から上位にかけて,礫の長軸の方位が流れに直交するものが卓越するようになる傾向が見出せた.これはいくつかあるHCF堆積物や類似の堆積物の形成モデルのうち,Sohn (1997)が示した traction carpet (タービダイト下層の無層理部分)の形成を説明した「粗粒層が水底に接し,下位に細粒層が位置する」というモデルと整合的である. また目標(C) に関連して,河床縦断面に沿った地形断面図を作成し,HCF堆積物は巨大土石流が流下に従い遷移したと考えられること,またHCS堆積物による地形面は従来考えられていたより下流方向に3km以上分布する可能性が高いことを見出した.このHCF堆積物の推定分布範囲内で,安倍川の支流が合流点付近で流路を変えた痕跡をいくつか見出し,その一つでは支流の旧流路が土石流/HCF堆積物により充填されていることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目標(A):HCFは土石流が流下に伴い遷移することにより発生することが知られており,「土石流と通常河川流(掃流)の中間的な流れ」と呼ばれているが,具体的にはどのような流れであるか不明な点が多い.約300年前に形成され未固結であるHCF礫層から礫の長軸の方位が層準によって異なること,その結果が従来の幾つかのモデルの一つに整合的であることは意義深い.2018年度には学術論文として公表できるだけのデータの質を保証する測定数は取得できなかったが,2019年夏の国際学会にて予察的結果を発表する予定である. 目標(B):後述する通り,アルバイトの確保ができず,試料処理が進まなかった.ただしこの項目は2020年度までかけて検討を行う予定であり,今後挽回が可能である. 目標(C):宝永地震による大谷崩の崩壊量は1959年に崩壊堆積物が堆積した地形面から見積もられたものが現在でも使用されているが,土石流堆積物とそれが遷移したHCF堆積物では駆動様式が異なるため,HCF堆積物のみで地形面を推定すると,その分布は従来考えられていたより下流方向に数km以上延長され,実際に土石流/HCF堆積物による支流の埋積が認められた.このHCF堆積物の推定分布範囲内で,安倍川の支流が合流点付近で流路を変えた痕跡をいくつか見出し,その一つ(梅ヶ島関の沢)では旧流路が土石流/HCF堆積物により充填されていることを確認した.この堆積物の起源については引き続き調査・検討を進める必要があるが,仮に宝永の大谷崩の巨大崩壊起源であれば,大谷崩の崩壊量の見積もりはさらに増加することになる. 目標(D):初年度である2018年度には実施しなかった.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目標 (A)~(D)について,それぞれ述べる.目標 (A) については2019年度前半に礫の長軸の方位の測定数を増やし,それから推定されるHCF流の特徴を国際学会にて発表するとともに,2019年度末または2020年度初頭にかけて国際学術誌への投稿を目指す.目標 (B) については現状では十分な測定数を得ておらず,引き続き作業を進める.目標 (C) については従来考えられている分布より下流にて巨大崩壊の産物である可能性が高い土石流/HCF堆積物を見出している.植生が繁茂しているため,2019年度夏季には地元の梅ヶ島村史等の文献調査,2019・2020年度の冬季に現地調査(堆積物の記載に基づく大谷崩起源か否かの判別,年代測定用試料の採取)を行う予定である.目標 (D) については2020年度から実施予定であったが,土石流/HCF堆積物による本流および支流合流部での埋積地形の特徴については (C) にて理解しつつあるので,2019年度夏季に長野県北部の姫川流域または富山県の常願寺川流域で,予備調査を実施する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は大きく2点あげられる.まず外国旅費(国際学会への参加・発表)が当初の見積もりより安くすんだこと,そして研究室の院生・ポスドク数が大きく減ったため,調査補助・試料処理等を依頼できる優秀な人材を確保することができず,目標 (B) のための試料処理が十分進まなかったことである.2019年度は最低限の調査補助・試料処理を依頼できる人材は確保しており,円磨度の測定数を増やすことができると考えている.2018年度の残額は,ひとつは目標(C)に関連して,適切な年代測定(炭素同位体年代)用試料を見出すことができた場合年代測定費に充てる,また目標 (D) 関連調査の開始を1年早め,2019年度に安倍川以外の地域での予備調査を行うことによって,使用する予定である.
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