研究課題/領域番号 |
18K03764
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
横沢 正幸 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (80354124)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 個体間相互作用 |
研究実績の概要 |
現地調査を実施するとともに群馬大学および弘前大学の関連研究者から過去のデータを提供いただいた。そのデータに基づいて樹木個体サイズごとの樹高成長速度とその分散、胸高直径成長速度とその分散を計算して、サイズ構造モデルの移流項と拡散項の時間変化を関数データ解析の手法で定量化した。関数データ解析は説明変数と目的変数の両方を関数として扱い、各時刻におけるそれらの関係を記述する手法である。既存の回帰関係ではある時間間隔でたとえば平均化された説明変数と目的変数との間でモデル化されるが、両者を関数化することにより恣意的な間隔を定める必要がないことなどから、より柔軟な回帰関係を定量化することが可能となる。本来のサイズ構造モデルは時間と個体サイズを変数とした偏微分方程式で記述され、連続的な時間・サイズ軸上の変化を表現するモデルであることを考慮すると、関数データ解析のような連続変量間の関係を結びつけることはモデルの仮定と整合的である。 以上のように樹高と直径の個体サイズごとの時間変化をデータから関数として回帰関係を表現した結果を1次元のサイズ構造モデルと2次元のサイズ構造モデルそれぞれに適用してシミュレーションを行った。それらのサイズ構造の時間変化を現実の動態と比較した。当初は2次元モデルの方が現実と整合的かと予想したが、1次元モデルでも適切に位置モーメント補正を導入することにより実際の動態をよく再現した。一方で枯死過程が発生した後の動態はうまく記述できないことも明らかになった。これは個体枯死による位置モーメントの時間変化が現実をよく反映していないためである。位置モーメントは注目する個体の周りに存在する個体グループのサイズを平均化して定量化されるが、その時間変化が枯死プロセスに追随できないことによる。とりわけ枯死した個体のサイズと個体数に依存してその精度が異なることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
感染症の拡大により当初予定した現地調査を含めたモデルと実測データとの比較解析が十分行えなず、これまで2年間研究期間を延長してきたが一方で、当初想定していなかった研究方向や改良方法などが見つかり、サイズ構造モデルの拡張とその空間モーメント近似の導入について十分に検討ができた。これらの成果を踏まえて最終年度に包括的なモデルを提示できる見通しが立っている。
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今後の研究の推進方策 |
枯死過程にもとなう位置モーメントの時間変化が現実をよく捉えられない場合があることが判明したので今後、枯死過程と連動した位置モーメントの時間変化を改良する。また最終年度として、これまでの改良を取り入れた位置モーメント近似ならびに樹木集団内部の微気象環境を考慮したサイズ構造モデルをコーディングして、実際の林分におけるサイズ構造動態ならびに微気象環境の時間変化挙動を解析する。微気象環境、個体サイズおよび個体の同化機能の相互関係を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
感染症拡大に伴って実施できなかった現地調査および研究打合せを2022年度には実施したが、実施時期の関係からデータ解析とモデル化が遅くなりその結果をまとめることも後ろ倒しになってしまい、研究費もそれに伴って残が発生した。次年度はその残金を利用して成果のまとめを行う。
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