演習林観測サイトにおける毎木データを利用して、各個体の動態を集団的に解析してこれまで提案してきたサイズ構造モデルなどの記述の妥当性および改良方向について検討した。まず毎木の樹高と胸高直径をサイズとしてそれらの時間変化をデータベースから取り出し、昨年度試行した関数データ解析の手法により毎木データの観測期間ごとサイズごとの平均成長速度ならびに成長速度の2次モーメントを関数として表現した。関数化の際の基底関数はB-スプライン関数を使用した。関数データの解析には毎木データをそのまま利用するのではなく、まず個体ごとのサイズの時間変化の様相を樹高と胸高直径を変数とする2次元平面上でプロットした。すなわち各個体のサイズの時間変化は平面上のプロットの動きとして捉えられる。そして各個体のサイズの時間変化を各サイズ変数(樹高と胸高直径)を離散化して個体数が保存するように離散化レンジに分配した。すなわちサイズの時間変化は連続的であるため、その連続値に近い離散値に距離の重みで分配した。その離散値に変換したデータを利用して関数化し、2次元のサイズ構造モデルを作成した。同時に位置モーメントを考慮した1次元のサイズ構造モデルも作成した。今回の手法が既存の手法と異なる点は、既存の手法ではデータから求めた各期間における同一サイズ個体群の成長速度とその分散値をそのまま回帰式で表現したのに対して、今回の手法では各個体の成長分を離散化し、その後に関数化する点が異なる。これにより個体数の保存が保証されることになる。作成した両サイズ構造モデルの現象再現性を解析したところ、両モデルとも概ね現実の動態を再現することが分かった。この結果より、個体のサイズ動態を個体数が保存するように適切に扱ってモデル化することが重要であることが示唆された。
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