研究課題/領域番号 |
18K03765
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研究機関 | 総合地球環境学研究所 |
研究代表者 |
齋藤 有 総合地球環境学研究所, 研究基盤国際センター, 研究員 (60469616)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 鉄マンガン酸化物 / Sr-Nd同位体比 / 堆積物 / 懸濁物 |
研究実績の概要 |
河川の堆積物粒子の付着成分,ケイ酸塩成分のSr-Nd同位体比と,河川水のSr-Nd同位体比を比較し,水由来のSr-Ndが多く含まれる成分を確かめる実験を行なった.三陸地方で太平洋に注ぐ大小の12河川(奥入瀬川,久慈川,北上川,名取川,阿武隈川など)より採取した懸濁物について,酢酸,塩酸ハイドロキシルアミン酢酸(HH)溶液による溶出実験を行い,交換体及び炭酸塩,鉄マンガン酸化物と想定される成分を抽出した.さらにその残渣を砕屑性ケイ酸塩成分と想定し,フッ酸・硝酸・過塩素酸を用いて完全に分解した.各成分についてSrとNdの同位体測定を行い,河川水のSr-Nd同位体比と比較した. Nd同位体比は,各成分とも河川水の値とよく一致することが確認された.鉄マンガン酸化物にはNdを含む鉱物はモナザイトや褐簾石など,岩石や堆積物中において主要でない鉱物に限定して含まれることから,岩石から水に溶存したNd同位体比と,溶存せず砕屑物粒子に残存するNd同位体比との間に大きな分別が起こらないことが推定される. 一方,Sr同位体比は炭酸塩成分では河川水溶存成分と良く一致するが,他の成分は河川水とは大きくずれることが確認された.値がずれるのは,Srは斜長石を始め多くの主要鉱物に含まれることから,鉱物の溶解度の違いによって水と残渣である堆積物との間に同位体比の差が生じるためと解釈できる.炭酸塩成分のSrと河川水溶存Srの同位体比が一致することは,炭酸塩成分が水から析出したものであることを支持する.しかし同じく水から析出したと想定される鉄マンガン酸化物のSr同位体比は水よりもケイ酸塩成分の方に近かった.このことは,鉄マンガン酸化物中のSr含有量が少ないためと考えられる.Sr含有量の少ない鉄マンガン酸化物を抽出する過程で使用したHH溶液の反応性が高すぎて,ケイ酸塩成分の一部も溶かしてしまった可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
河川懸濁物の鉄マンガン酸化物に含まれるNd同位体比が河川水の値と概ね一致することが確認できた.この結果は,鉄マンガン酸化物が堆積作用に関与した水の情報を提供するという本研究の理論的基盤が間違っていないことを示すものであり,本研究を次のステップに進めることが可能となった点で大きい.しかし一方で,溶出実験に用いたHH溶液の侵食性が想定以上に高くケイ酸塩の一部を溶出した可能性も示唆され,技術的な部分を少し改善する必要がある点で,想定以上に進展しているとまでは言えない.
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今後の研究の推進方策 |
仙台湾で採取された海水の懸濁物について,河川懸濁物と同様に溶出実験を行い,海水溶存成分とNd同位体比を比較する.仙台湾の海水のNd同位体比は,外洋水との混合により,名取川や阿武隈川といった流入河川水よりも低いことを,他の研究ですでに明らかにしている.仙台湾の懸濁物はこれらの河川に由来すると考えられるが,それらに吸着する鉄マンガン酸化物が河川のNdを保持する程度を河口からの距離や深度との関係から考察する. 一方で,2011年東北太平洋沖地震による津波による陸上の堆積物を対象に海水のシグナルを検出する研究に着手する.福島県北部沿岸平野部で採取された津波堆積物試料及び津波の影響を受けていない堆積物試料について炭酸塩成分,鉄マンガン酸化物成分,ケイ酸塩成分それぞれのSr-Nd同位体比を測定する.周辺河川水及び沿岸海水を採取し,それらと堆積物各成分とでSr-Nd同位体比を比較し,津波海水の痕跡の検出を試みる. それらと並行して,HH溶液の濃度や作用時間を調整することで,ケイ酸塩の溶出を出来るだけ抑えつつ鉄マンガン酸化物を最大限抽出できる条件を求めるための実験や,堆積物埋積後の鉄マンガン酸化物中のSr-Nd同位体比の安定性を検証するための実験を逐次行って行く予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
同位体分析に用いる装置が共同利用機器であるため,予約が取れずに分析できなかった試料があり,その分,処理に用いる薬品代,機器利用費に余剰が生じた.翌年度以降,未分析の試料の測定に用いる消耗品及び機器利用費として使用する予定である.
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