堆積物が接触した水の情報をNd同位体比として保存する可能性について検証することを目的とした.まず,堆積物の各成分と水との相関関係を確認するため,海水懸濁物の各成分と海水溶存成分のNd同位体比を測定した.仙台湾の沿岸から沖まで複数地点の様々な深度から採取した懸濁物試料の酢酸溶出成分,塩酸ハイドロキシルアミン酢酸溶液(還元剤)溶出成分,残渣,および海水それぞれについてNd同位体比を測定した.その結果,海水と,酢酸溶出成分および残渣との間には弱い相関(r=0.5~0.65)が認められた一方,還元剤溶出成分との間には相関が認められなかった.残渣と海水との相関は,海水中のNdが懸濁鉱物由来である可能性を示唆し,吸着成分との識別評価が困難となった.今後,砂などの粗粒な堆積物で検証する必要がある. 次に,2011年東北地方太平洋沖地震による津波で運ばれた陸上堆積物を対象に,海水情報の検出を試みた.2014年と2019年に採取した,厚さ約10cmで上方細粒化する津波堆積物を用いた.2014年採取試料は,その水溶成分のSr同位体比が上部に向かって海水の値に近づく変化が見られ,細粒な粘土鉱物がイオンを吸着する可能性が考えられる.しかしながら,水溶成分に加え酢酸溶出成分についても測定を行なった2019年採取試料は海水の関与を示す変化を示さなかった.堆積後の時間でSrが溶脱したことが考えられる.一方,Nd同位体比は,2014年,2019年試料とも,酢酸溶出成分について測定した.その結果,2019年試料に関して,津波堆積物の区間の上部の泥質部で有意に低い値が計測され,海水の寄与が示唆されたが,2014年試料に関しては有意な変化は認められなかった.2014年試料は密封保存期間が長かったためにサンプル袋内が還元的となり,吸着したNdが溶脱して水溶成分に移動してしまったことが一つの理由として考えられる.
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