研究課題
千島海溝沿岸域は本邦屈指の地震多発地帯である.この地には17世紀や12/13世紀に発生したとされる津波堆積物が多くの地域で観察出来る.一方,根室海峡や根釧から十勝海岸には我が国には珍しい現在も活動的なバリアー砂堆が多数認められ,17世紀の地震に起因して隆起し,その後現在まで沈降し続けていることが明らかとなっている.この問題の解決の糸口として,初年度は2ヶ所で予察的な地形調査を行った.まず,根室市別当賀湿原で行った調査によって,17世紀地震によって離水したバリアー砂堆を特定することができた.現在の海岸に認められる浜堤との比高差をBH値を用いて比較した結果,その隆起量は0.35 m以上と推定された.さらに陸側には海浜侵食面を介して17世紀津波堆積物に覆われた古い地形面を確認出来た.ここではMa-bテフラ(1 ka)やTa-cテフラ(2.5 ka)と共に12層の津波堆積物を確認することが出来た.同様の方法で,十勝海岸ホロカヤントーにおいても1.41m以上の隆起が推定された.しかも17世紀に離水した浜堤には津波堆積物は一切観察されず,その上面はUs-bテフラ(1663年)によって覆われる.その背後の湖底や周辺の湿原には17世紀に発生した津波堆積物が観察できる.以上の事実関係から,以下のような過程が推測される.(1)17世紀超巨大地震発生後に大津波が襲来し,古いバリアー砂堆を侵食した.その砂が津波堆積物の母材となり,湖底や周囲の湿原に再堆積した.(2)その後,沿岸漂砂によりバリアー砂堆が復元された.(3)余効変動によって徐々にバリアー砂堆が隆起し,遅くともUs-bテフラが降灰した1663年には波の影響が達しない高度まで到達していた.
2: おおむね順調に進展している
当初予定していた霧多布湿原での調査は,他の組織の研究と内容が重複したこともあり,当局から調査許可が下りず,計画通りには出来なかった.代案として実施した別当賀湿原では当初の目標であった17世紀超巨大地震による離水したバリアー砂堆と津波堆積物との前後関係と空間関係を明確にすることが出来た.同様に,十勝海岸ホロカヤントーにおいても同様の調査を実施し,成果をあげることができたた.
別当賀湿原とホロカヤントーでの調査結果をさらに探求し,その他のバリアー海岸においても同様の検討を行っていく準備を行っている.
初年度に購入を予定していたノートパソコンとカードリーダーの購入を順延したために予算が繰り越された.これらの備品の購入については,研究の進展にあわせて再度検討したいと考えている.
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GSJ 地質ニュース
巻: 8 ページ: 0-0
巻: 7 ページ: 0-0
日本地質学会News
巻: 21 ページ: 5-6
地質学雑誌
巻: 124 ページ: 413-433
doi.org/10.5575/geosoc.2018.0013