研究課題/領域番号 |
18K03774
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
島田 誠一 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特任研究員 (90360370)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | GNSS精密測位 / 上下成分座標値解 / 経験的位相特性 / GNSS連続観測 / GEONET観測網 |
研究実績の概要 |
平成30年度に計算サーバーを導入し,毎日のGNSS観測データから観測点座標値を求める解析で,各観測点の座標解決定に得られる各観測点・各衛星の30秒ごとの位相残差を計算し収録するプログラムを開発した. この解析プログラムを用いて,試験的な解析に着手した.解析では,1997年~2016年の期間の関東地方南部の低地に設置されているGEONET点56点の上下変動の概要を明らかにした.農業による地下水汲み上げにより,約60mmの振幅の年周変動を伴いながら地盤沈下している茨城県西部の三和観測点や,水溶性天然ガス採取のために年周変動とともに,1997年~2010年の期間に約160mmの地盤沈下を起こしている九十九里平野の大網白里観測点などの上下変動を明らかにした.また,新潟県を中心とした54点のGEONET点の2012年~2018年11月まで期間の観測データを解析し,新潟平野を中心とした多くの観測点において,消雪用地下水汲み上げに伴う年周変動と地盤沈下などの上下変動を明らかにした. 関東平野の三和観測点や新潟県内の栄観測点では,地下水の汲み上げ量の多い季節(三和点の夏期・栄点の冬期)の沈下ピークが大きな年(地下水汲み上げ量が多い年)に,経年的な地盤沈下が加速する傾向が見られており,地下の帯水層及びその上位にある地層の地質構造と地下水位との関係から非弾性地盤沈下が進行するという仮説を支持するような現象が観測されている. これらの解析において,この研究課題の本来の目的である各点毎の経験的位相特性を用いた解析はまだ行っていない.それでも,研究代表者が導入した30day-window Kalman filterを適用することによって,観測点にもよるが3mm程度の座標値再現性で上下変動を捉えることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各観測点のpostfit位相残差を計算するプログラムの開発において,全国で約1300点のGEONET点の1996年の観測開始以来直近までの20年以上にわたる観測データを,できるだけ手間をかけることなく自動解析できるようなプログラムの開発を試みた.このプログラムのなかで,各観測点・各衛星の30秒ごとのpostfit位相値残差を自動的に算出してファイルサーバに収録する機能を組み込んだ.GEONET全点自動解析システムは,研究代表者が2008年から開発を着手しているプログラムシステムであるが,これまでの準リアルタイム自動解析処理の経験に基づいて,今回新たに全面的にプログラムを書き直した.これは,postfit位相残差の自動算出・自動収録機能の追加のみでなく,最新の世界座標基準系ITRF2014において導入された,複数の指数関数及び対数関数で表現される地震後余効変動を組み込んだ初期座標値の計算や,電離層2次・3次項の補正など,最近の測地学や解析プログラム(GAMITプログラム)開発の成果をとりいれた機能を付け加えるためでもある.また,今回導入した計算サーバーは1台で40個のコアを搭載しているが,このようなサーバー毎に異なる,多数のコアの搭載した複数の計算サーバーにおいて,プログラムに手を加えることなく効率的な計算を行えるような機能も工夫した.
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度に本研究課題予算でファイルサーバーを導入し,観測データを蓄積して,経験的位相特性とその仰角毎の変動や経年・年周変動を吟味してから,これを適用した再解析を行う.解析では,すでに予備的解析に着手している関東地方の170点及び新潟県を中心とした54点のGEONET点の,choke-ringアンテナ導入後の2003年以降の解析をまず行う. これらの観測点においても,今年度の解析結果から,一部の観測点では,数10日程度の周期の不規則な変動が捉えられており,これを経験的位相特性によって低減することができるのか,あるいはこのような変動の原因を明らかにして別の手法によって低減させることができるのかが,これからの研究課題である.また,長期間のデータ解析によって,当初から予想されていたように,2003年以前の観測で用いられていたmicro-stripアンテナでは数10日~数か月の周期を持つ顕著なノイズが捉えられており,本課題の完了時までに,このようなアンテナに起因するノイズが経験的位相特性によりどの程度低下されることができるかも,これからの研究課題である.経験的位相特性を求めるためには,少なくとも1年間以上の毎日の座標値解の仰角・方位角毎のpostfit位相残差をstackingすることが必要と考えられる.
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