研究課題/領域番号 |
18K03774
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
島田 誠一 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特任研究員 (90360370)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | GNSS精密測位 / 上下成分座標値解 / 経験的位相特性 / Gelileo衛星 / GEONET観測網 |
研究実績の概要 |
平成30年度に作成した,各観測点の座標解決定に得られる各観測点・各衛星の30秒ごとの位相残差を計算し収録するプログラムを用いて,関東地方の約170点のGEONET観測点及び新潟県を中心とした約50点のGEONET観測点の,観測開始以来の観測データについて解析し,観測点座標値とともに各観測点・各衛星の30秒ごとのpostfit位相値残差を自動的に算出する計算を実行中である. また,2019年度には計算結果を収録するファイルサーバを導入して,大容量になる各観測点・各衛星の30秒ごとのpostfit位相値残差を収録できるようにした. 従来,GPS衛星のみを解析対象とするGNSS衛星と考えていたが,最近の海外の研究動向・成果から, Galileo衛星についても実際に試験解析を行って,2016年以降について解析対象の衛星とすることを検討した.GPS衛星とは異なる衛星システムの衛星を用いると,単純に衛星数が増大するほかに,軌道要素が異なっていることから,異なる方位角・仰角を衛星が通ることによって,計算しようとしている経験的位相特性の空間分解能が高まることも期待できる. また,平成30年度に明らかにした,関東地方のGEONET点において観測された農業利用や水溶性天然ガス採取のための地下水利用に伴う上下成分の顕著な年周変化と経年的地盤沈下及び,消雪用地下水汲み上げに伴う上下成分の年周変動と経年的地盤沈下について,従来の水準測量や地下水位観測・地盤沈下計による観測よりはるかに時間分解能・リアルタイム性・経済性などの点で優れた新しい地盤沈下モニター手法であることを,2019年7月にカナダ・モントリオールにおいて開催されたIUGG(国際測地学及び地球物理学連合学術総会)19において口頭発表した.さらに,この研究内容をIAG Symposia Seriesに投稿し,現在査読中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
関東地方の約170点のGEONET観測点及び新潟県を中心とした約50点のGEONET観測点について,1996年の観測開始以来の観測データについて,平成30年度に作成したプログラムを用いて解析し,各観測点・各衛星の30秒ごとのpostfit位相値残差の計算を進めている. すでに,2012年以降の観測データから,試験的に経験的位相特性の算出を始めているが,まだこの経験的位相特性を用いて,各点・季節毎に異なると予想される低仰角衛星のマルチパスと大気境界層に起因する観測残差増大の特性を明らかにするための,低仰角の衛星も含めた全天的な衛星を用いたstatic高精度測位の解析は開始していない.この点においては,研究の進捗は当初の予定に比べてやや遅れている. 一方で,GPS衛星以外にGalileo衛星についても,比較的精度の高い解析結果が得られる目処がつきつつあるので,両者の解析により,GPS衛星のみを用いた場合より多くの方位角・仰角残差のpostfit位相残差が得られるので,経験的位相特性の精度も高まることが期待できる.Galileo衛星の利用については,当初想定していなかった新しい研究要素である. 新潟県内の観測点の上下変動を詳しくみると,同じ観測点の年周変化でも,特に夏季における隆起のピークが1つであったり2つになったり年によって異なっていることが明らかになった.新潟県内では,広く消雪用に地下水の汲み上げが行われていて,冬季には地下水位の低下に伴う沈降が多くの観測点で見られていて,地下水位は夏期を中心にした降雨によって回復していると考えれている.一方で,地下水は水田などの農業利用のためにも汲み上げられていると考えられ,夏期の地下水位の上昇に,降雨以外に農業利用による地下水の汲み上げも関係している可能性が考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
GEONET観測網では,1996年の観測当初から2003年前半まではマイクロストリップアンテナ,2003年途中から2012年途中まではGPS用チョークリングアンテナ,それ以降はマルチGNSS用チョークリングアンテナを用いて,観測が行われている.このため,まず現在使用されているマルチGNSS用チョークリングアンテナについて,経験的位相特性の作成を行う.GEONET点のうち,まず現在まで研究対象としてきた関東地方及び新潟県内の観測点について,解析と経験的位相特性の作成・評価を進める予定である. Galileo衛星は,2016年から2017年にかけて打ち上げられて整備が進められたので,2012年から2016年ころまではGPS衛星のみを用いた経験的位相特性しか得られないが,2016年ころからはGPS衛星による解析とGalileo衛星による解析との両方のpostfit位相残差が得られている.このための,Galileo衛星の解析も加えた場合に経験的位相特性にどのような改善が見られるかも評価したい. 新潟県内の観測点の年周上下変動の年ごとの違いが,特に夏季に顕著に見られることが明らかになっている.これが降水量などの違いによる農業利用地下水汲み上げの違いによるものなのか,あるいは植生やこれに起因するマルチパスなどアンテナ周囲の環境の違いによるものなのかがはっきりしない.経験的位相特性の年ごとの変化を明らかにすれば,このような年周変動の変化についても解明を試みたい.
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