研究課題/領域番号 |
18K03776
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
福田 淳一 東京大学, 地震研究所, 助教 (70569714)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | データ同化 / 物理モデル / 測地データ / 断層摩擦特性 / 余効変動 / 余効すべり / 粘弾性緩和 / GNSS |
研究実績の概要 |
本研究の目的の一つとして、余効変動の測地学的観測データを用いたプレート境界断層の摩擦特性の推定が挙げられる。測地学的に観測される余効変動は主にプレート境界断層における余効すべりとマントルの粘弾性応力緩和の寄与の和であると考えられるため、摩擦特性を推定するためには、これらの2つのプロセスからの寄与を適切に分離することが必要である。平成30年度は、2011年東北沖地震の余効変動の観測データからプレート境界断層の摩擦特性を推定するために、摩擦構成則に従う余効すべりとマントルの粘弾性応力緩和を組み合わせた余効変動の物理モデルを用いて、東北沖地震の余効変動のモデル化を行った。このモデルでは地震時の応力変化によって粘弾性緩和と余効すべりが駆動され、余効すべりの時間発展は摩擦構成則に従うと仮定している。従って、モデルによる余効変動の計算値は、プレート境界断層の摩擦パラメータ、マントルの粘性率分布、地震時のすべり分布等に依存する。モデル計算による検討の結果、粘弾性緩和、余効すべり、及び地震時のすべり分布の間にはトレードオフがあり、これらを別々に推定したりどれかを固定したりすると、粘弾性緩和と余効すべりの観測データに対する寄与が適切に推定できない可能性があることが分かった。そこで、東北沖地震時の地表変位及び地震後7年間の地表変位の時系列データを用いて、上記の余効変動の物理モデルのパラメータ、つまり、プレート境界断層の摩擦パラメータ、海洋マントル及びマントルウェッジのMaxwell及びKelvin粘性率、地震時のすべり分布とそれに対する平滑化パラメータを同時に推定する手法の開発に着手した。その結果、地震時及び地震後7年間の地表変位の時空間パターンを水平・上下変動共に概ね説明するパラメータを推定することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、(1) 摩擦構成則に基づく断層すべりの物理モデルの構築、(2) 物理モデルのパラメータ、モデル変数の初期条件、及びそれらの不確定性を推定する手法の開発、(3) (1)のモデル、(2)の推定手法及びスロースリップイベントや余効すべりに対する測地学的観測データを用いたプレート境界の摩擦特性の推定の3つに分けられる。平成30年度は、(1)について粘弾性緩和の影響も考慮した2011年東北沖地震の余効すべりの物理モデルを摩擦構成則に基づき構築し、(2)についてこの物理モデルのパラメータとモデル変数の初期条件を推定する手法の開発に着手した。また(3)については、これらの物理モデルと推定手法を用いて、2011年東北沖地震の地震時及び余効変動の測地学的観測データからプレート境界断層の摩擦特性の推定を行った。従って、本研究課題は研究目的に沿っておおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
物理モデルのパラメータを観測データから推定することはできているが、現時点ではパラメータの最適値が推定できているのみであり、パラメータの不確定性を定量化することはできていない。粘弾性緩和、余効すべり、及び地震時のすべり分布の間にトレードオフがあることを考慮すると、パラメータの不確定性を定量化することは重要である。そこで、今後はパラメータを推定する問題をベイズ統計の枠組みで定式化し、事後確率分布を推定することによってパラメータの不確定性を定量化することを試みる。本研究で使用しているモデルは計算コストが高いため、事後確率分布の推定に広く知られているマルコフ連鎖モンテカルロ法を使用することは困難である。そこで、モデルの計算コストが高い場合にも適用できる事後確率分布の推定手法について検討する。また、本研究課題のもう一つの主要目的であるスロースリップイベントに対する観測データを用いたプレート境界の摩擦特性の推定についても、モデル構築やパラメータ推定手法についての検討を開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外の研究者との共同研究のため、海外出張(アメリカ)を予定していたが、研究の進行状況や共同研究者の都合を考慮すると次年度に実施した方がより大きな効果が期待できると考え、延期することにした。海外の研究者との共同研究のための海外出張(アメリカ)の旅費として使用する予定である。
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