研究課題/領域番号 |
18K03777
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
神田 径 東京工業大学, 理学院, 准教授 (00301755)
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研究分担者 |
高倉 伸一 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 上級主任研究員 (50357349)
丹保 俊哉 公益財団法人立山カルデラ砂防博物館, 学芸課, 学芸課長補佐 (10574311)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 比抵抗 / 浸透率 / 透水係数 / 流動カラム実験 / キャップ構造 / 水蒸気噴火 |
研究実績の概要 |
立山火山地獄谷において、初年度に実施した土壌ガス拡散放出量測定を120ヶ所(うち113ヶ所は2018年度の測定と同じ)で実施した。また、昨年度導入した土壌透水係数測定装置を用いて、地獄谷内の2ヶ所の透水係数を測定した。土壌からの二酸化炭素放出量の分布は、2018年度の測定で得られた分布と傾向に大きな変化は見られなかったものの、放出量は全体的に小さくなっており、地獄谷の地熱活動の低下を表すものと思われる。また、ドローンを用いて測定した熱赤外画像と比べてみると、放出量の高い領域と比較的高温の領域は概ね一致した。
2019年度に採取した4ヶ所の土壌(地獄谷中心部(Hy,Ko)および周辺部(Ha,Na))の化学分析を外注により実施した。蛍光X線分析による化学組成では、地獄谷中心部の2試料では、硫黄の含有量が最も多く、Koで82wt%, Hyで70wt%を占めた。この値は、活動的な阿蘇山中岳火口の湖底堆積物中の含有量(約74wt%; Miyabuchi and Terada, 2009)に近い値であり、地下深部からの硫黄を含む火山ガスの影響を強く受けていることを示す。周辺部の2試料では、いずれもケイ素の含有量が最も多く(30~40wt%程度)、硫黄の含有量は5~7wt%であった。粉末X線回折分析の結果によれば、シリカ鉱物(石英、クリストバライトなど)と硫黄が卓越しており、HyおよびKoではスメクタイトなどの膨潤性粘土鉱物は検出されなかった。一方、湖成堆積層で採取したHaとNaからは、ごく少量のスメクタイトが検出された。試料を採取した4ヶ所のうちKoを除く3ヵ所では、土壌の透水係数も測定しており、Hyでは、透水係数が3桁以上大きいことがわかった。以上のことから、地獄谷中央部では、低浸透率を担っている物質としてはシリカや硫酸塩であり、熱水の存在により低比抵抗を示しているものと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
コロナウィルスの影響により、野外調査等の多くの業務が9月以降に実施せざるをえなくなったため、今年度実施する予定であった流動カラム装置の改良が時間的に行えず、装置を使った実験ができなかった。そのため、研究期間を1年間延長することとした。
一方、立山地獄谷での現地調査では、当初予定通りの調査を実施することができた。その結果、土壌の透水係数と土壌からの二酸化炭素放出量、および温度分布に一定の対応が見られることがわかった。しかし、土壌の化学組成は、地熱活動が活発な中心部とその周辺部で異なっており、低浸透率を担っている物質も異なる可能性がある。比抵抗構造は、地獄谷内で中心部の一部を除き低比抵抗を示しており、同じ比抵抗値でも、そのメカニズムが異なる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
今年度実施予定であった流動カラム装置を用いた実験を再開する。電極に用いている金属メッシュを粗くするなどにより、改良は最低限にとどめる予定である。立山地獄谷での現地調査により、低浸透率の土壌と構成物質との関係性がある程度見えてきたので、2019年度に採取した土壌を用いて流動実験を進める予定である。
立山地獄谷での現地調査も可能であれば実施する。今年度同様に土壌ガス拡散放出量の繰り返し測定と透水係数のその場測定を予定している。得られたデータから、透水係数と土壌ガス、地中温度の関係を定量化できないか検討し、比抵抗の分布と比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験装置の改良を行うことができなかったため、その経費を使うことができなかった。立山地獄谷で採取した土壌の分析は、測定結果は出ているものの、経費の執行が次年度となってしまった。次年度は、これらの執行を行う予定である。また、2月の国際学会に参加して成果発表を行う予定であったが、1年間の延期となってしまった。本国際会議は2022年1月に現地開催が予定されているが、開催されるかどうか怪しいため、そのための使用計画はたてずに、立山地獄谷での調査費用や国内学会(オンライン開催も含む)での成果発表費用に充てる予定である。
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