研究課題/領域番号 |
18K03778
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
保柳 康一 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (30202302)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 津波堆積物 / 南相馬市小高区井田川 / 完新世環境変動 / 縄文海進 / ガンジス・ブラマプトラ・マグナデルタ / ベンガル堆積盆地 / 海水準変動 |
研究実績の概要 |
2015年に全長25 mの完新統コアを福島県南相馬市小高区井田川地区(海岸から約0.9 km)で掘削した.そこで,この研究ではさらに約0.7 km 陸側で2018年6月に2本目のボーリング調査をおこない過去1万年間の完新統の試料約14 mを得た.このコアを記載するとともに軟X線写真を撮影した.含まれる木片5試料と貝化石3試料について放射性炭素年代測定を依頼した.また,粒度分析,全有機炭素量,全イオウ量,安定炭素同位体比,珪藻化石分析を10 cm間隔でおこなった.これらの分析から,今回の掘削地点では,おおよそ9000年前に海水が侵入して8000年前頃にはエスチュアリー化したことが分かった.前回の海側の掘削地点より,海水の侵入は500年以上遅かったと考えられる.一方,おおよそ5000年前にエスチュアリー中央盆地が埋積され,塩水湿地化すると津波起源と考えられるイベント砂層が挟在するようになりその数は2011年の3.11津波堆積物を含めて9層になる.従って,砂層の堆積周期はおおよそ550年となることがわかった.海側のコア中のイベント砂層との対比を現在進めている.これらの2本のコアの放射性炭素年代と堆積相解析に基づく結論は,Uchiyama et al. (2018,印刷中)として,国内誌である堆積学研究に英文で発表した. また,2019年2月にバングラデシュに渡航し,ガンジス川流域で砂州や周辺の堆積物を予備調査して,来年度以降の調査地などを選定した.また,1部の地域で試料を採取して,粒度分析,全有機炭素量,全イオウ量,安定炭素同位体比,珪藻化石分析を予察的に開始した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
南相馬市井田川での2本目のボーリングコアの採取とその記載,分析も順調に進み,おおよそ予想どおりにデータが集まっている.ただ,コア対比のための年代のコントロールが難しい.昨年度掘削したコアについて実際は11試料の放射性炭素年代を依頼したが,そのうち深度1m程度から得た炭質物質3点が,0年前という測定結果となり,試料が地表から混入したことを示唆する値となった.また,この層準には逆に下位の年代値より古い値を示す試料も存在しており,地表からの人為的改変がどの深度まで及んでいるのか,慎重に検討する必要がある. バングラデシュの洪水・高潮堆積物についても,2019年4月から博士課程院生となったラジシャヒ大学講師モハンマド・マシダル・ハック氏が研究協力者として2018年2月から調査と試料分析に協力してくれており,極めてスムーズに研究を開始することが出来た.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,まず,南相馬の2本のコアの砂層の対比を進める.古い木片のリサイクルや地表からの混入で,コア上部で放射性年代値として信頼できる数値を得られていない.特に,地表から深度2 mの区間は,干拓などの人為的影響により,新旧の物質が混じり合っている可能性が考えられる.このことをもう一度考慮して,二地点間の砂層の対比を再考する.必要があれば,二地点間で連続的に深さ2 m程度のジオスラーサー試料を採取し,炭素を含む試料を探して年代測定を依頼することも考える.また,砂層上下での珪藻化石分析などを細かい分析間隔でおこない,対比の根拠を見出したい. バングラデシュの研究は,これまでに採取した1998年のものと思われる洪水堆積物の粒度分析,全有機炭素量,全イオウ量,安定炭素同位体比,珪藻化石分析をさらに進める.あらたな試料については,春から秋の雨期には調査が難しいので,次年度末になる2020年2月頃に,ダッカより海側の地域の調査と試料採取をおこなう.また,バングラデシュ東部のチッタゴン周辺でのみ津波堆積物の可能性が指摘されているので,可能ならこちらの調査も予定したい. 珪藻化石分析は,修士課程大学院生の内山しおり氏の協力により南相馬,バングラデシュの研究とも進める.また,バングラデシュでの現地調査とその試料の分析は,ハック氏の協力で進める.ハック氏は現在来日中なので,研究協力者として彼が現地調査をおこなうための旅費をこの研究費から支出する.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度にバングラデシュへの渡航費用として30万円を予算計上してあった.バングラデシュの調査は予定どおりおこなったが,2018年度に信州大学から教育・学術交流に関わる予算の募集があったので,大学間の共同研究を推進することを目的としてこの予算に応募した.その結果,信州大学から渡航費用を得ることが出来た.そのため,科研費に今年度計上していたバングラデシュでの調査のための旅費を次年度に使用することにした.次年度は,来日中の研究協力者ハック氏が調査に日本から出かけるための費用を計上してあるが,これに,もう一名研究代表者もしくは研究協力者が同行して,一緒に調査を行うための費用として使用する予定である.
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