研究課題/領域番号 |
18K03779
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
平原 和朗 香川大学, 四国危機管理教育・研究・地域連携推進機構, 客員教授 (40165197)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | データ同化 / アンサンブルカルマンフィルター / 長期的スロースリップ / 速度状態依存摩擦則 / GNSS |
研究実績の概要 |
豊後水道長期的スロースリップ(LSSE)を想定し、双子実験と呼ばれる数値実験を行うことによって、GNSS地殻変動データを観測データとした、逐次的データ同化手法であるアンサンブルカルマンフィルター(EnKF)を用いて、LSSE断層域での摩擦特性の推定およびすべり発展予測を逐次的に行う手法の開発を行った。 まず、1997年以来観測されている繰り返し間隔7年、すべり継続時間1年程度の豊後水道LSSEを再現するモデルを構築した。具体的には、速度状態依存摩擦(RSF)則に従うすべり速度強化特性を持つ平面断層内に、すべり速度弱化特性を持つ円形パッチを設定し、豊後水道LSSEを再現するモデルを構築し、LSSE断層内の模擬すべり発展を作成した。次に、そのすべり発展モデルに基づき、地表観測点における変位速度の模擬データを作成した。この模擬観測データをEnKFデータ同化手法により解析し、摩擦パラメータおよびすべり速度発展の推定を行い、推定された摩擦パラメータとすべり速度を仮定した真値と比較する双子実験を行い、1~2回のLSSEの発生後に推定値が仮定した真値に収束することを確認した。その際、アンサンブルメンバーの初期推定値の作成法、アンサンブルメンバー数、およびデータ同化間隔の選び方によりどのように解の収束性が変化をするのかを調べて、最適な手法を検討した。 更に、LSSE域の浅部に位置する巨大地震震源域での固着のLSSE活動への影響を考慮したモデルにより、LSSE域の摩擦特性およびすべり発展に加え、固着域でのすべり欠損速度の推定を行うEnKFデータ同化による手法補開発を行った。ただし、巨大地震震源固着域でのすべりがLSSE域と同じようにRSF則に従うように仮定すると、領域を小さなセルに分割し計算コストが高くなるので、この固着域でのすべり欠損速度は、運動学的に推定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していたGNSSデータを観測データとした、LSSE域の摩擦特性推定およびすべり発展予測に加え、更に巨大地震震源固着域におけるすべり欠損推定を行うEnKFデータ同化手法の開発を進めたので、おおむね順調にして進行している、と評価した
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今後の研究の推進方策 |
現状のモデルでは、巨大地震震源域における固着すべり欠損速度を一定としている。これは、巨大地震サイクル中の短い解析期間では妥当な仮定と言える。しかしなから、地震サイクル中の後半には地震発生には向けて固着状態が大きく変動すると想定されるので、現状では実データ解析は難しいが、将来的な地震発生に備えて、変動を含むデータ同化手法を開発しておく必要があり、様々なケースについて双子実験を行う予定である。 また、実データ解析に向けて、以下の事項について検討して、試験的に実データ解析を試みる。1)LSSEおよび固着域断層面:現状モデルでは平面断層を用いているが、実際のプレート形状を顧慮した曲面断層へ変更する。2)観測データ:現状ではGNSSによる地表変位速度をデータとしているが、実データではかなりノイズが大きいので、効率的な平滑化手法を開発するとともに、累積変位をデータとする手法の開発を行う。3)データ同化開始時期の検討:現状では、データ同化開始時期を模擬データおよび各アンサンブルメンバーで定常状態dθ/dt=0となる時刻に設定しているが、実データでは観測変位速度が最大の時刻しか使えないので、その時刻を基本にデータ同化開始時期を検討する。4)観点数・配置の変遷:実際のGEONETは年代毎に順次観測点が増設され観測点配置が変わってきているので、その影響を評価する予定である。 なお、初期成果を論文にまとめ、投稿し、更に新たな開発状況や実データへ解析の試験的結果を学会で発表し議論を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた、初期成果に対する論文作成において、当該年度内に行う英文校正が間に合わなくなったので、論文投稿を取りやめた。次年度には、まず論文を再度検討し英文校正を行い、初期成果に対する論文投稿を行い、引き続きEnKFデータ同化手法の構築を行う研究を継続する。
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