研究課題
天然クリノゾイサイト(Czo)で発見された放射性元素に起因しない結晶性の低下(Nagashima et al. 2011)は,結晶質物質の新しい非晶質化作用の存在を示唆するが,その原因やメカニズムは未解明である。本申請課題は観察や解析で把握した実態に基づいて放射性元素に起因しない原子配列の乱れを引き起こす原因を明らかにすることを目的とする。令和元年度は,定方位で測定した天然の含Cr+V Czoおよび合成mukhiniteの顕微ラマン分光スペクトルの詳細な解析を行い,それらの結果について研究協力者と議論を重ねた。天然のCr+Vを含むCzoはCr+V含有量の増加に伴い構造欠陥の高密度化を示す。またNagashima et al. (2019)で合成 V-Czoを再検討したところ,全体にラマンピークの半価幅が大きく,特に100cm-1付近にブロードなピークが存在する。このピークのフォノンモードはCaに対するSi2O7の転移とM3サイトにおけるAlへVの置換によると結論付けた。少なくともここで言えることは,Crを含まないV-Czoで前述の天然試料と類似する低結晶性現象が確認されたということである。またいずれの試料でもOH 伸縮振動領域に群論で予想される1つではなく 2つ以上のピークが見られた。これはCzo構造内に一般にみられる水素結合とは別の水素結合の存在を示すことが示唆され,H+イオンの移動が関わっていると考えられる。これにより逆位相境界欠陥が形成され,結晶質物質が断片化し,全体が結晶質のナノ領域に分けられて欠陥が広がると予想される。これが放射性元素の起因しない低結晶化現象に対する本研究の現時点での仮説である。
2: おおむね順調に進展している
令和元年度は主に前年度に取得した定方位の顕微ラマン分光スペクトルの詳細な解析を実施し,これまで理解が不十分であったクリノゾイサイトのラマンスペクトルの帰属について明らかになった(未公表)。この詳細な解析によって,低結晶現象の原因について逆位相境界における欠陥の形成に起因する結晶質物質のナノ領域に断片化され全体に欠陥が広がるという仮説を立てるに至った。一方,Crの影響を検証するため,これまでの合成実験のノウハウを活かして,定方位での顕微ラマン分光分析に十分な大きさのCr-Czo単結晶の合成を試みているが,未だ成功していない。しかし,合成実験の過程でCr+V Czoの安定領域や共生相との関係,温度・圧力だけではなく酸素分圧が与える影響を検証することができた。これは本研究の総括するさいに天然の条件を理解するための重要な成果といえる。決してすべての実験や分析が順調とは言えないが,本来予想していた結果が得られなかった場合も本課題の問題を解決するために必要なデータの取得ができており,課題解決に確実に前進しているといえる。
放射性元素の起因しない天然の含Cr+V Czoで見られる結晶性の低下,合成V-Czoの格子欠陥の存在や周期性の低下に関する知見から立てられた本研究の仮説を実証する。放射性元素に起因する典型的なメタミクト化を示す褐簾石でみられる現象の共通点と相違点の把握に努める。またCr-Czo単結晶を合成し,Crの結晶性変化への影響を明らかにする。また,定方位顕微ラマンスペクトル解析結果について国際誌に論文を公表する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件)
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