研究課題/領域番号 |
18K03782
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
永嶌 真理子 山口大学, 大学院創成科学研究科, 准教授 (80580274)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 結晶性 / 非晶質 / ラマン分光 / クリノゾイサイト |
研究実績の概要 |
申請課題はフィンランド産のクロムとバナジウムに富むクリノゾイサイトで放射性元素に起因しない結晶性の低下を発見した(Nagashima et al. 2011)ことを出発点としている。鉱物は規則正しい原子配列を持つ結晶質物質であるが,ウランやトリウムのような放射性元素を少量でも含むと,それらの放射壊変により原子位置の規則性が乱されて変動したり,原子配列が無秩序化して部分的に非晶質化することが知られてきた。しかし,上述の放射性元素を含まない天然クリノゾイサイトでみられた結晶性の低下は,非晶質化の新たなメカニズムの存在を示唆したが,その原因や機構は不明であった。これまでの研究でも様々な方法で事象の解明を試みてきたが,X線結晶構造解析などの長周期原子配列を対象とする手法や高分解能透過型電子顕微鏡を用いたナノスケールの局所観察では本現象を十分にとらえることができず,これらの中間的スケールに該当する短周期原子配列の検討の必要性を認識し,本申請課題では高分解能顕微ラマン分光スペクトル解析法を適用して検討するに至った。 令和2年度は,これまで蓄積してきた長周期およびナノスケールで得られたデータに前年度に実施した顕微ラマン分光スペクトルの解析結果に加えて再検討し,これまで得られた全データを矛盾なく説明する状態として「原子配列の周期性に乱れがない同方位を持つ結晶子が断片化し,それらの境界領域である粒間相の結晶性が低下している状態」が想定されると結論付けた。さらに結晶性の変化は結晶子の断片化による結晶子の大きさを反映していると考えられ,「結晶性の低下は逆位相境界における欠陥の形成に起因して結晶質物質がナノ領域に断片化され全体に欠陥が広がることにより発生する」という仮説を立てた。しかし,未だその発生メカニズムの全容を解明には至っておらず,これは次年度以降の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和二年度は,社会情勢を鑑み他研究機関における測定や分析を控え,主にデータ解析・文献調査,予察的実験・分析に時間を割いた。本申請課題で取得した顕微ラマン分光スペクトル解析の結果と自身の予察的研究結果に基づいて提案した仮説に関して,現時点で考えられる見解などを含め,国際誌Physics and Chemistry of Mineralsに論文を公表した (Nagashima et al. 2021)。 これまで低結晶性Cr+V-クリノゾイサイトの再現実験を行ってきた。合成実験の結果から,未知の組成不混和領域の存在が示唆され(未公表),現時点で天然試料の再現成功には至っていない。この再現の困難性は,フィンランド産クリノゾイサイトの形成がいかに例外的なものであるかを示している。合成実験では本来予想していた結果が得られていないが,天然試料の形成過程の推定などに重要なデータを取得することができた。これは課題解決に確実に前進しているといえる。なお,天然試料の再現実験は来年度も継続して実施する。 また様々な天然鉱物に関する文献調査および分析を実施した結果,フィンランド産試料と類似した性質を示す天然鉱物を新たに見出した。このことは本現象の普遍性を示すものであり,今後この天然鉱物に関する詳細な検討を進める。 以上のことから,一部計画変更は迫られたものの国際誌への論文公表,本申請課題の仮説の実証に適した新たな天然鉱物の発見など,本申請課題はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
Nagashima et al. (2021)で提案した「化学結合によって発生する局所応力がクリノゾイサイト結晶構造与える影響」を実証するため,クリノゾイサイト結晶構造を持つ化合物の合成を準備中である。合成後,生成物に関して長周期,ナノスケールさらにその中間的スケールである高分解能顕微ラマン分光法でその性状を明らかにする。さらに低結晶性を示す天然のフィンランド産Cr+V-クリノゾイサイト再現実験も継続する。 また本課題解決を図るために令和2年度に実施した様々な天然鉱物に関する文献調査および分析の結果,フィンランド産試料と類似した性質を示す天然鉱物を新たに見出した(未公表)。予察的検討で本鉱物は本申請課題で提案した仮説の検証に適していると判断した。そのため令和3年度は上述の合成実験と並行して新たに見出した天然鉱物の詳細な検討を進める予定である。
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