研究課題
本課題はフィンランドOutokumpu産のクロムとバナジウムに富むクリノゾイサイト(Czo)で放射性元素に起因しない結晶性の低下の発見(Nagashima et al. 2011)を出発点とする。鉱物は一般に規則正しい原子配列を持つ結晶質物質として知られる。しかし,ウランやトリウムのような放射性元素を含むとそれらの放射壊変で原子位置の規則性が乱されて変動したり,原子配列が無秩序化して部分的に非晶質化する(=メタミクト化)。上述の天然Czoでみられた放射性元素に起因しない結晶性低下は,非晶質化の新メカニズムの存在を示唆したが,その機構は不明であり,長周期原子配列を対象とするX線回折や高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)を用いたナノスケールの観察では本現象をとらえることが困難であった。そのため,本課題では前述の研究方法の中間的スケールに位置する短周期原子配列を検討するため高分解能偏光顕微ラマン分光スペクトル解析を新たに実施した。既存のX線回折法およびHRTEM観察と新たに得られた偏光顕微ラマン分光スペクトル解析結果に基づき,本研究は上述の事象を「原子配列の周期性に乱れがない同方位を持つ結晶子が断片化し,それらの境界領域である粒間相の結晶性が低下している状態」と結論づけたが,その発生メカニズムの理解は不十分であった。2021年度はこれに着目し,データの再解析が実施された。その結果,Czo構造内のM3八面体に特定の陽イオンが分布するとOH基を形成する水素イオンの無秩序配向が促進されることを見出し,無秩序化した水素イオンが構造内ユニットの結合を阻害することで原子配列の規則性の欠陥および周期性低下が引き起され,最終的に結晶子の断片化に至るというメカニズムを提唱するに至った。本現象は結晶質物質には普遍的に起こる現象であり,特に含水造岩鉱物の物性に大きな影響をもたらすと考えられる。
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