2020年度は主に微量元素濃度および143Nd/144Nd同位体比の分析を行った。分析試料は、室戸岬ハンレイ岩体の周辺部を構成するドレライト、ハンレイ岩体に貫入する石英長石質脈、ハンレイ岩体近傍に分布する堆積岩の3種類とした。ドレライトに関しては酸分解を行った後、誘導結合プラズマ質量分析装置を用いて微量元素濃度を測定した。一方、ジルコンなどの難溶性鉱物を含む石英長石質脈と堆積岩については、アルカリ融解を行った後、微量元素濃度を測定した。143Nd/144Nd同位体比は、陽イオン交換樹脂を用いたカラムクロマトグラフィーにより、岩石の酸分解溶液から目的元素を抽出したあと、表面電離型質量分析装置を用いて測定した。微量元素比およびNd初生値を用いた検討の結果、一部のドレライト試料において堆積物の同化作用を被ったことが示唆される。また、室戸岬ハンレイ岩体を形成した初生マグマは、四国海盆のソレアイト質玄武岩や、室戸岬半島に分布する丸山ドレライトに比べてエンリッチした143Nd/144Nd同位体をもつ可能性のあることがわかった。この点については今後、堆積物の影響がより少ないと考えられる岩体中央部のハンレイ岩試料の同位体分析を通してさらに検証する予定である。上記のほかには、黒雲母組成を火成・変成作用、熱水変質作用の指標として用いる際の適用限界について検討した。検討結果は、室戸地域において接触変成、熱水変質作用時の元素移動や温度履歴を解析する際に活用できる。
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