研究実績の概要 |
付加体形成場におけるマグマプロセスを検討するため、室戸岬ハンレイ岩体から採取した堆積岩、ハンレイ岩サンプルを対象に、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析装置)を用いた微量元素分析とTIMS(表面電離型質量分析装置)を用いた143Nd/144Nd同位体比分析を昨年度に引き続いて行った。その結果、堆積物によるマグマの化学的汚染(同化作用)はハンレイ岩体の周辺部だけでなく、岩体中心部のハンレイ岩においても認められることがわかった。これは、堆積物によるマグマの同化作用が貫入境界周辺部でin-situに起こるだけでなく、貫入前の段階、つまりマグマ上昇中にも生じたことを示唆している。また、室戸岬ハンレイ岩体中央部に分布する粗粒ハンレイ岩が、室戸岬半島に分布する丸山ドレライトと同程度の143Nd/144Nd同位体をもつことが明らかとなった。よって、室戸ハンレイ岩の初生マグマが、四国海盆のソレアイト質玄武岩や、室戸岬半島に分布する丸山ドレライトに比べてエンリッチした特徴をもつという昨年度の解釈は修正する必要がある。玄武岩質マグマの形成条件を推定するため、微量元素を用いたマスバランスモデリングを行った。初生マグマ組成は、堆積物へ貫入したマグマの組成を記録していると判断できるドレライト(急冷相)の全岩化学組成をもとに、分別結晶相の影響を補正して見積もった。モデリングの結果、室戸岬ハンレイ岩をもたらした初生マグマは、枯渇したMORBソースマントルを源岩とし、約1.3 GPa、1300℃の溶融条件で生じたと結論づけられる。ただし、マントルの部分溶融だけでは、ハンレイ岩体試料のRb, Ba, Th, Pb濃度を説明できない。これらの元素は、堆積物の同化作用によってマグマへ添加された化学成分であると解釈される。
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