本研究は、地球の下部マントルの対流に伴う摺曲・変形構造を地震波解析により明らかにし、それに基づき10億年単位の時間スケールにおけるマントル対流の実相を解明することを目的として遂行された。本研究では以下の三項目①~③に取り組んだ。①マントル深部に存在する1~100㎞スケールの不均質構造により散乱された地震波を新解析し散乱体の形状を調べた。②様々なタイプの地震波散乱に関するデータ・セットを構築してマントル深部のグローバルな散乱体分布とより大きいスケール(数千km~数㎞)の不均質構造との関連を調べた。③地震波散乱モデルとマントル対流シミュレーションとの比較方法を検討した。 本研究の結果、トンガフィジー地域の下部マントルの散乱体分布を調査し論文として公表することができた。その際に注目された散乱体深さ分布をより広域について調査するため、主に環太平洋地域の沈み込み帯に対して下部マントルのSP散乱体分布を包括的に調査した。その結果、下部マントルの最上部300km程度に多くの散乱体が見られ、それよりも深い領域ではSP散乱体個数は減少する傾向を見出した。同種の傾向は他の散乱波(PPやSS)についても見られ、下部マントル不均質の一般的特徴である可能性が示唆された。また下部マントル起源のSP散乱波の強度は平均してポストスピネル転移による660km不連続面におけるSP変換波の70%にも及ぶことが示され、極めて大きな物性変化が数kmの範囲で起きていることが示された。これらの結果も国際学術誌に発表された。また、オホーツク海とペルー下の顕著な下部マントル散乱体群に注目してUSアレイの極めて高品質の地震波形データを精査した結果、これらの散乱体が、著しく褶曲した厚さ10km程度の薄層構造を持つことも示唆され、散乱体群の広がりが最低で100km程度はあることも示された。この成果も国際学術誌に掲載された。
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