研究課題/領域番号 |
18K03786
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
吉本 和生 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科(八景キャンパス), 教授 (10281966)
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研究分担者 |
武村 俊介 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 地震津波火山ネットワークセンター, 特別研究員 (10750200)
中原 恒 東北大学, 理学研究科, 准教授 (20302078)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 地震波 / 振幅の揺らぎ / ばらつき / 地殻構造のランダム不均質性 |
研究実績の概要 |
本研究では、地殻構造の短波長ランダム不均質性に起因する地震波の振幅の揺らぎ(ばらつき)の特徴を、観測データの解析、数理散乱モデルの構築、数値シミュレーションに基づいて探究する。また、その研究成果を踏まえ、強震動予測における最大地動振幅評価の不確定性を見積もる。具体的には、高感度地震観測網(Hi-net)により浅発地震の波形記録が大量に集積されている西南日本を研究対象地域とし、観測記録の解析から地震波の振幅のばらつきの特徴を明らかにする、地殻構造の短波長ランダム不均質性の特徴を推定する、地震波の振幅のばらつきを評価する数理散乱モデルを構築する、3次元地震動シミュレーションに基づいて観測結果の再現を試みるとともに震源近傍の地震波の振幅のばらつきを推定する、最大地動振幅の予測に使用されている距離減衰式の不確定性を評価することなどを目指す。 当該年度は、中国地方の地殻内を伝播する高周波数(1 Hz以上)のP波およびS波の振幅のばらつきの周波数・震源距離依存性について検討するために、ダブルカップル型点震源を用いた地震動シミュレーションに基づいて、P波とS波の振幅のばらつきの周波数・距離依存性の方位角による変化を定量的に評価した。地震動シミュレーションには海洋研究開発機構の地球シミュレータを使用した。高周波数の地震波の振幅のばらつきの大きさは、強震動予測における予測精度と密接に関係することから、近年になって周波数・距離依存性についての定量的な評価が必要とされている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ここでは、当該年度の研究の進捗状況を具体的に得られた成果を中心にしてまとめる。 地震動シミュレーションの結果、P波振幅とS波振幅のばらつきは、震源距離とともに増大し、高周波数ほどその特性が顕著であることが確認された。測定された振幅は、震源輻射係数から期待される値(以下、振幅の期待値)をほぼ中心にしてばらつく。ばらつきの大きさの絶対値は振幅の期待値に概ね比例する。すなわち絶対値は、震源輻射の節にあたる方向で小さく、震源輻射の腹にあたる方向で大きくなる。ダブルカップル型の見掛け輻射パターンは、2-4 Hz程度以上の周波数帯になると、特にS波において、地殻構造のランダム不均質性による散乱作用のため比較的小さい震源距離(15 km程度)から不明瞭になる。このような地震波の振幅のばらつきの特徴は、震源近傍における強震動予測においてその不確定性として考慮されることが望ましい。なお、現状では、空間密度の限られた地震観測網の記録からは本研究と同様の評価は困難である。このため、将来的には、震源近傍における稠密な地震観測とそのデータの解析による検証が必要であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に従って、主に以下の研究をすすめる。 高密度地震観測網(Hi-net)で収録された地震波形の解析から、中国地方の地殻内を伝播する高周波数のP波およびS波の振幅のばらつきの周波数・震源距離依存性を明らかにする。具体的には、防災科学技術研究所の高感度地震観測網により主に中国地方で収録された地殻内地震の波形を解析し、P波およびS波の振幅のばらつきの周波数・震源距離依存性の詳細を明らかにする。 ランダム不均質媒質中における地震波の伝播特性に関する数値解析的な研究として、差分法による3次元地震動シミュレーションを実施する。この研究には、Takemura et al. (2015)による3次元地震動シミュレーションのコードを改良して使用し、東京大学地震研究所の計算機システムおよび海洋研究開発機構の地球シミュレータを利用する。地震動シミュレーションは、ランダム不均質媒質のパラメタの設定値を大きく振って実施し、観測データの解釈だけでなく、数理モデルの予測精度の検証等にも役立てる。 地震波の振幅のばらつきを評価する数理散乱モデルを構築する。ダブルカップル型輻射パターンの震源距離による崩れを多重散乱モデルにより評価し、その上に振幅のばらつきを重畳させる。最終的には、観測結果と比較して数理散乱モデルの再現性の検証を目標とする。
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