研究課題/領域番号 |
18K03787
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
太田 亨 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (40409610)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 古気候 / 白亜紀 / アジア大陸 / 後背地風化度 |
研究実績の概要 |
研究期間1年目には,白亜紀における低緯度地域(北ベトナム)と中緯度地域(四川盆地)の気候変遷を吟味するために2地点の現地調査と泥岩試料の採取を行った.低緯度地域の研究対象とした北ベトナム,ハノイ周辺では,下部白亜系Ban Hang層と上部白亜系Yen Chau層を対象とし,それぞれ17個,27個の泥岩試料を採取した.中緯度地域の研究対象地域である中国の四川盆地に分布する白亜系については,下部白亜系(Cangxi, Bailong, Qiqusi, Gudian層)・中部白亜系(Wotoushan, Daerdang層)・上部白亜系(Sanhe, Gaokanba層)に区分して,計47サンプルを採取した. 現地踏査の結果,北ベトナムに関しては,年代層序のデータが不十分なため,前期白亜紀と後期白亜紀における気候変遷を議論するにとどめた.ただし,上部白亜系Yen Chau層下部において,石膏・カルシソルが存在することが確認されたので,中期白亜紀ごろに古環境が変遷したことが岩相から推定された. 一方で,四川盆地につては,層序区分と年代対比が比較的整理されており,現地踏査でも層序を追認できたので,前期・中期・後期白亜紀の気候変遷が議論できると判断した.現地調査の結果からは,下部と上部白亜系は典型的な河川堆積物であることが確認されたが,中部白亜系には,30度以上の傾斜を持つ大型斜交葉理砂岩がみられ,風成デューンの生成が示唆された. 全試料について蛍光X線装置とX線回折装置による分析を実施し,全岩化学組成と粘土鉱物組成のデータの取得を全試料について完了させた.これから,泥岩試料の化学風化指標(W値)とカオリナイト含有量を求め,後背地風化度を評価した.古気候の推定は,主に,世界各地の気候帯に発達する現世の土壌のW値の比較からおこなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
W値の結果は,北ベトナムでは前期白亜紀に熱帯雨林気候,後期白亜紀には砂漠気候に移行していたことを示した.この結果は,現地踏査によって上部白亜系下部に乾燥化を指示する石膏・カルシソルが認められた事実と調和的である.粘土鉱物組成でも,極度の風化生成物であるカオリナイトが中期白亜紀にのみ欠如していた.このことから,中期白亜紀にアジア大陸の低緯度地域(北緯15度付近)が乾燥化したことが示された. 四川盆地では,W値は前期白亜紀で温暖湿潤気候,中期白亜紀で熱帯雨林気候,後期白亜紀に温暖湿潤気候に戻る気候変遷を検知した.この結果は,白亜紀に温暖最盛期が示されている古気温データと調和的である.ただし,前述したように,中部白亜系には風成デューンが発達していることから乾燥気候が示唆され,今回得られた中部白亜系湿潤化の結果とは,一見,矛盾する.砂漠化が示唆される風成デューンは癒着した厚層理砂岩相にみとめられ,今回得られた熱帯雨林気候は狭在する泥岩層から検知された.このことから,四川盆地における中期白亜紀は,乾燥-湿潤が繰り返される気候であったと考えられる.これが正しければ,四川盆地が位置する中緯度地域(北緯30度付近)は,中期白亜紀に低緯度地域に発達した砂漠化地帯の北限を規定している可能性が挙げられる.ただし,四川盆地は白亜紀においても内陸盆地であったために,内陸性気候特有の乾燥化や,造山運動によって気候が変遷することも考えられる.したがって,今回の結果のみから,四川盆地の位置が低緯度地域に発達した砂漠化地帯の北限を規定していると断定することはできない.
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今後の研究の推進方策 |
上記のように,中期白亜紀の極温暖化によって低緯度地域が砂漠化したことは北ベトナムの解析結果から確認された.また,砂漠気候帯の北限が,北緯30度付近であることが四川盆地の解析から示された.しかし,四川盆地で示された気候変動は,内陸盆地であるがための地理的・地形的要素が要因であった可能性は捨てきれない.極温暖化による砂漠化地域の認定にはさらなる検証が必須である. そこで,次年度は,砂漠化地域の北限を追認する研究を進めるように研究方針を定めた.具体的には,四川盆地のような内陸性盆地ではなく,大陸縁辺盆地の古気候解析を進める.中国浙江省と山東省には広く白亜系が分布する.両地域は四川盆地と古緯度がほぼ同じだが,古太平洋に面しているという特徴を有する.したがって,地域的な古地理要因よりも,より全球的な環境変動を検知できると期待される.浙江省については,中部白亜系Guantou, Chaochuan層,上部白亜系Laijian, Chichengshan層を研究対象として設定し,5月に現地踏査を計画している.山東省については,下部白亜系Laiyang層群, 中部白亜系Qingshan層群, 上部白亜系Wangshi層群を研究対象として選定し,10月に現地踏査を計画している. 採取した試料は蛍光X線装置とX線回折装置による分析を実施し,全岩化学組成と粘土鉱物組成のデータの取得し,泥岩試料の化学風化指標(W値)とカオリナイト含有量を求め,後背地風化度を評価する計画である.解析結果は,四川盆地のそれと比較しながら,中期白亜紀の極温暖モードにおける砂漠気候帯の広がりを認定する.
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次年度使用額が生じた理由 |
中国における車借り上げ代が当初予定より少額に抑えられてたので,その収支の差が発生した.
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