研究課題
ヒマラヤ形成初期の大陸衝突帯初期プロセスを解明するために、北西インドの高ヒマラヤ帯変成岩類について圧力-温度―経路を推定した。その結果、これらの変成岩類は、漸新世初期に広域的な中圧型変成作用と流体飽和溶融による部分溶融を被っていたことが明らかになった(Kawabata, Imayama et al. 準備中)。この流体飽和溶融は、東ネパールの黒雲母脱水反応による漸新世初期の部分溶融とは成因が異なる(Imayama et al. 2019)。北西インド高ヒマラヤ帯の高温変成作用の期間は長く、その後中新世初期頃から急速に冷却して上昇した。高ヒマラヤ帯の下限断層である逆断層は、中新世初期頃の急上昇に大きく関連しており、逆断層付近では漸新世初期と中新世初期の複数変成作用を被っている(Imayama et al. 2020)。北西インド高ヒマラヤ帯内部の正断層帯は、漸新世初期の逆断層センスの運動をした後に、中新世初期から正断層運動に変化している(Bose, Imayama et al. 準備中)。ただし、北西インドでは、漸新世初期の部分溶融の程度は低く、東ネパールに比較すると、高ヒマラヤ帯の漸新世初期の上昇はそれほど著しいわけではない。北西インドの超高圧岩体について、野外調査を実施して、超高圧岩体やオフィオライト岩体の試採取を行った。超高圧岩体は、広域的な中圧型の後退変成作用を被っているものの、一部の地域ではオンファス輝石などの超高圧変成作用の痕跡を記録している(Imayama and Dutta 2019)。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、インド大学ボンベイ校との共同野外調査、変成岩岩石学に基づく変成圧力-温度経路の推定、地質年代学に基づく変成・冷却年代の推定を実施した。その結果、サブテーマの一つである「北西インドの高ヒマラヤ帯の沈み込みと上昇はいつ始まったのか?」については、新たな知見が多く得られている。特に、変成圧力-温度条件変成年代の空間変化については、地質圧力温度計、相平衡計算、ラマン圧力計やジルコンのウラン-鉛年代に基づいて詳細に行った。また、断層帯の運動時期を推定するために、構造地質学的研究と融合させて、ジルコンとモナザイトのウラン-鉛年代測定を実施した。もう一つのサブテーマである「北西インドの超高圧型変成岩類の後退変成作用と昇温期中圧型変成岩類の区分」については、共同野外調査と試料採取を実施した。現在は、採取した試料の薄片観察による鉱物組み合わせや鉱物化学組成を解析している。これらの進捗状況は、当初の研究計画書に書かれた通りの内容であり、概ね順調に進んでいるといえる。
今後の研究は、「北西インドの超高圧型変成岩類の後退変成作用と昇温期中圧型変成岩類の区分」の解明に向けて、研究を主に推進する。野外調査の結果、眼球片麻岩類に取り囲まれる変成岩類は、超高圧変成作用の痕跡を保存することが明らかになった。一方で、岩体周囲の変成堆積物に包有される変成岩類は、著しく中圧型変成作用を被っており、岩体内部でも多くの不均質が観察される。今後は、これら変成岩類の変成圧力-温度-時間経路の空間分布を明らかにして、岩体内部にどのような違いがあるのかを明らかにしていく。特に、ジルコン包有物解析や冷却年代測定を実施して、その違いに注目していく。また、超高圧変成岩類の部分溶融の証拠や流体の起源をメルト・流体包有物解析により明らかにして、超高圧変成岩類における部分溶融の役割を解明する。さらに、野外調査では、インドプレート沈み込み時の大陸衝突前に形成されたオフィオライト岩体を採取した。これらの火成岩類の起源やオブダクトした時期は諸説あり、地球化学的および年代学的研究を実施する。これらの研究に基づいて、インドプレート沈み込みからヒマラヤ形成初期までの大陸衝突帯初期プロセスを解明する。
分析機器の状態などから、一部の分析費用が次年度に持ち越しになったため。翌年度には、延期になった試料の追加分析も含めて、実施する。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件)
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