研究課題/領域番号 |
18K03789
|
研究機関 | 国立極地研究所 |
研究代表者 |
廣井 美邦 国立極地研究所, 研究教育系, 外来研究員 (40019427)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | メルト包有物 / 過冷却組織 / ザクロ石 / グラニュライト / 高温変成作用 / 部分融解 / 微細組織保存 / 大陸衝突型造山運動 |
研究実績の概要 |
地球上の大規模な地殻変動(造山運動)は大陸同士の衝突による「大陸衝突型」と海洋底が大陸下に沈み込むことによる「島弧―海溝型」がある。日本列島は後者の典型例であるが、地球全体の造山運動を理解するためには前者の研究も不可欠である。研究代表者は世界各地の大陸衝突型造山帯を調査し、かつて造山帯の地下深部に位置していた高温広域変成岩(グラニュライト)を採集してきた。それらを偏光顕微鏡、電子顕微鏡、電子線マイクロプローブアナライザ、カソードルミネセンス等で詳細に調べ、ザクロ石中に母岩が部分融解して生じたメルトが包有されていること確認した。さらにその一部が珪長質な火山岩に類似した組織を示すことに気づき、「珪長岩包有物」と命名した。火山岩はマグマが地表に噴出したものであるが、急冷したことを反映して過冷却組織を示すとともに、噴出前に成長した粗粒結晶の存在による斑状組織を示すことが多い。珪長岩包有物の存在はグラニュライトが急冷したことを示唆するものとして、大陸衝突型造山帯でのテクトニクスに新しい知見をもたらす重要な手掛かりとなる。しかしながら、それはこれまでのグラニュライトは数百万~数千万年かけてゆっくり上昇するとする常識からあまりにもかけ離れているためか、必ずしも注目されなかった。そこで、研究代表者はこれまでに珪長岩包有物の実像を明らかにするために詳細に観察・分析を行い、また急冷組織の再現実験を行って生成条件を限定するなどの作業を行うとともに、その重要性が認められるように論文発表等で公表に努めてきた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、コロナ禍による活動自粛のため、主として手元にある既収得のデータを解析し、論文化して公表する作業を行った。特に、世界各地の大陸衝突型造山帯に産出する高温広域変成岩(グラニュライト)中のザクロ石結晶に包有された急冷メルト包有物(珪長岩包有物)中に自形~半自形の斑晶状の石英結晶が出現することと、それにはチタンの含有量の違いを反映した累帯構造(電子顕微鏡カソード・ルミネッセンス法で観察加納)がよく保存されていることを世界で初めて示し、グラニュライトの冷却過程の解明の重要な手掛かりになることを示した。ところがその過程で、最近、石英中のチタンの拡散速度に関し、それまで広く採用されてきたものとは2桁も異なるデータが公表されたこと、石英中のチタン含有量を基づいた地質温度計にも未解決の重大な問題が内在していることなどが明らかにされてきたため、石英のチタンに関する累帯構造の結晶内拡散による改変状態を利用した冷却速度の定量的な取り扱いが現段階では不可能であることが判明した。
|
今後の研究の推進方策 |
最近(2019-2020年)、石英中のチタンの拡散速度に関し、それまで広く採用されてきたものとは2桁も異なるデータが公表され、また石英中のチタン含有量を基づいた地質温度計にも未解決の重大な問題が内在していることなどが明らかにされてきた。そのため、石英のチタンに関する累帯構造の結晶内拡散による改変状態を利用した冷却速度の定量的な取り扱いが現段階では不適切であることが判明した。その結果、重要な境界条件が設定できないため、グラニュライトの急速冷却のテクトニックモデルの模索は中止し、研究代表者らがその存在を世界で初めて明らかにした珪長岩包有物の多様な実像をより詳細に求め、考察し、論文化を進めて広くその重要性を開陳することにした。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度はコロナ禍での自粛のため、室内作業も出張もほとんどできなかった。そのため、補助事業期間延長申請して、研究を継続し、論文化を進める。
|