研究課題/領域番号 |
18K03793
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研究機関 | 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構職業能力開発総合大学校(能力開発院、基盤整備センター) |
研究代表者 |
領木 邦浩 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構職業能力開発総合大学校(能力開発院、基盤整備センター), 能力開発院, 教授 (70522085)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 大地抵抗率 / 接地抵抗 / 繰り返し測定 / 地下水位変動 / 水位観測井 / 地下水流動経路 / 微地形 / 武蔵野台地 |
研究実績の概要 |
実験室内における土壌や岩石の抵抗率と試料の種類、含水量、間隙率、間隙水の電気伝導度、温度等との関係はこれまで多くの研究により明らかにされてきている。しかし、原位置においてこれらと地下水位、地温等の変動との関係についての研究例は多くない。本研究は、地下水位と電気設備保安用接地の接地抵抗との関係を知るために、原位置における大地抵抗率や接地極の抵抗値と地下水位、地温、間隙水の電気伝導度との関係を解明し、水害等の事前察知による被害軽減を究極の目標としている。 大地抵抗率と地質体の諸物性、すなわち、地下水位や水質、地下水の電気伝導度、地温・気温・気圧・降水量等の季節変動との関係を明らかにするため、一昨年度削井した観測井においてこれらの連続観測を行った。 一方、建築物のA種接地の接地抵抗の繰り返し測定を1年間継続したところ、数十%変動することが確認された。そこで、この接地抵抗値を連続的に自動測定するため、記録装置付測定器を導入した。この装置は電極配置を変更することによって大地抵抗率が測定できるので、既存のシーケンサを用いて両者が自動計測できるようなシステムを構築した。 文献調査によると地下水面の上下変動は地下水の流路に依存し、地表の微地形がその流路を規定すると考えられるため、本研究の観測地周辺の微地形を詳細に把握する目的で地理院地図等を立体的に閲覧するWebビューアーを作成した。 本研究課題のtest fieldとして選定した武蔵野台地周辺の地質・地下水位分布・水害経歴等に関する多くの文献資料を収集した。その記載について精査分析中したところ、武蔵野大地に多数存在する「窪」を地名に含む特徴的な微地形地では地下水の上昇に伴う水害を受けてきた可能性が示されていることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度は観測井を掘削し、地下水位等の連続観測を開始するとともに、地表の接地極の接地抵抗値と大地電気伝導率との関係について平行二層構造における理論的研究を行った。 該当年度の当初計画では大地接地抵抗計および多電極切替機能付大地抵抗率計によって連続計測を実施する予定であったが、後者の機器が製造中止となり、高機能ではあるが高額な後継機種が予算上購入できなくなったため、急遽、接地抵抗計兼用型の多電極切替機能のない抵抗率計に定時繰り返し測定記録機能を特注によって付加させた測定器を導入して計測試験を実施した。その際、実在する建築物のA種接地は電気設備運用の必要性からしばしば他設備の接地に接続されているため、個別の接地の固有接地抵抗値が測定できない可能性があることが判明した。また、接地抵抗と大地抵抗率を同一の補助電極で測定した際に、測定対象の接地極周辺で分極が生じる結果、測定値が不安定となる可能性が示唆された。そのため、建築物のA種接地では接地抵抗値の測定を優先し、大地抵抗率を研究機関敷地内の近傍点で実施するように計画変更した。 上述した接地抵抗値の測定を繰り返し行った結果、概ね夏季の多雨期に低抵抗、冬季の渇水期に高抵抗を示した。ただし、今回の繰り返し測定では測定器の性能上測定期間の間隔が長くならざるを得ず、かつ、不定期であった。 本研究で掘削した観測井における地下水の連続観測の結果、1年を通じて自由地下水の水位は降水によって増加し、近似的には一次遅れ系の特徴を示すことが明らかになった、また、地下水の電気伝導度および水温は年間を通じて測定装置の分解能程度の変動しか認められず、一定であったと判断できる。従って、これらは接地抵抗値および大地電気伝導率の測定値に影響しないと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに導入した接地抵抗計兼大地電気伝導度計を用いて観測井近傍において連続観測を実施する。同装置にはいづれかの項目が1時間毎に観測記録できる機能が付属しているが、これにシーケンサ部品を付加して任意の時間毎に2項目を順次計測記録できるようにして、より詳しい挙動を観測できるようにする。これらはバッテリー駆動が可能であるため、観測井近傍で常時測定ができるように接地整備を行う。 また、昨年度明らかとなった、接地抵抗と大地抵抗率を同一の補助電極で測定した際に測定対象の接地極周辺で分極が生じて測定値が不安定となる問題に対処するため、同一測定装置およびシーケンス装置を更に一組導入し、既存の学生実習用D種接地極を用いて、観測井設置構内で同様の連続観測を実施する。この既存のD種接地極は埋設後少なくとも8年間は固定されていて安定状態にあることが見込まれるもので、かつ、他の電気設備用A種またはD種接地極とは直接接続されていないものである。 得られた観測データはcsvファイル形式でSDメモリカードに収録されるため、随時これを回収して観測井から得られる地下水位データや、気象庁が公表する観測井近傍点の降水量データと共に解析する。また、概ね令和2年度前半の観測記録に基づいて、必要に応じて測定間隔や付加項目の観測を検討する。 一方、当初予定していた大地抵抗率の二次元断面を得るための電極群切替装置は製造中止となったため、仕様変更して電線数を低減した装置の自作をめざし、当初の測定計画に沿えるよう試みる。 2020年12月末を目途に一定の観測成果をまとめ、研究集会等で研究成果の発表を行う。また、投稿論文として公表する。なお、本研究課題の性質上、今後数年間は連続観測を継続することが望ましいが、そのための経費は電気代程度の軽微なものであるため、これは本研究者の所属機関においてその研究経費として賄える見込みである。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画当初に予定していた多電極切替機能付大地抵抗率計が製造中止となり、やむなく切替機能のない他社製品を導入し、次年度に多電極切替装置を考案試作することとした。また、該当年度までの研究の結果、接地抵抗と大地抵抗率を同一の電極群で測定すれば測定結果に不都合な影響を与えることが明らかとなったため、該当年度に導入した測定器を追加導入して、近傍地点の異なる電極群で接地抵抗とは個別に大地抵抗率を測定する必要が生じた。そこで、これらの機器や多電極切替装置の製作に要する部品および消耗品等を調達するため、次年度使用額に次年度交付予定額を加えて執行することとした。
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