研究課題/領域番号 |
18K03794
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
豊国 源知 東北大学, 理学研究科, 助教 (90626871)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | グリーンランド氷床 / 地震学 / 氷床融解 / 準リアルタイム監視 / 地震波干渉法 |
研究実績の概要 |
H30年度は当初計画通り,既存の3成分連続地震波形データを用いて地震波干渉法解析を行い,レイリー波とラブ波両方の位相速度変化の検出を行った.使用したデータは2011年9月~2017年3月の5.5年分であり,テスト計算のため3つの地震観測点ペアにしぼって解析した.1観測点ペアについて,各観測点で得られた微動記録3成分(鉛直Z,ラディアルR,トランスバースT)を総当たりで相互相関関数を計算するので,9成分の相互相関波形が得られる.結果として3ペア全てで,ZZ,ZR,RZ,RR成分にはレイリー波,TT成分にはラブ波が明瞭に現われた.位相速度の季節・経年変化を調べたところ,同一ペアについては変化のパターンが同じで,速度変化は成分によらず安定していた.またZZ成分のみを用いた先行研究と同じく,氷床底部の融解・凍結の別により,速度変化のパターンが逆転する現象も確認された.この成果は日本地球惑星科学連合2018年大会で発表した.
さらに,地震波干渉法で得られた相互相関波形が,理論グリーン関数と一致することを確認するため,現実的な3次元モデルを用いた理論地震波形計算を行った.計算には地球の曲率,地下の3次元密度・地震波速度・減衰構造,地形,海水を考慮できるプログラム(Takenaka et al., 2017)を用い,スーパーコンピュータを使った並列計算で理論波形を得た.結果として,相互相関波形は,グリーン関数に十分よく近似されていることが確かめられた.さらに,氷床内部のQ値を変えて複数回計算を行った結果,P波とS波のQ値の組み合わせについて(QP, QS)=(20,20)が最もよく観測波形を説明することが明らかとなった.この成果は日本地震学会2018年度秋季大会で発表した.
また,5/29~6/14に米国隊と共同で氷床上の3地震観測点の保守を行い,1年分の連続地震波形データを無事回収した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
H30年度の成果で特筆すべきことは,当初計画にはなかった3次元理論地震波形計算を導入したことである.課題代表者らの先行研究では,地震波干渉法を用いて観測点間を伝播するレイリー波の波形を抽出し,その位相速度変化を調べた.しかし地震波干渉法は,「観測点間の常時微動記録の相互相関波形は,長期的に平均するとグリーン関数に近似される」という仮定に基づいた手法である.グリーンランドにおける相互相関波形に,この仮定が成り立つかどうかの保証はなく,今回の理論地震波形計算で,初めてそれが実証されたと言える.
さらに,シミュレーションではパラメータを様々に変えて複数回の計算を行うことが出来るので,相互相関波形の特徴を最もよく説明する氷床のQ値を求めることができた.氷床が高減衰であることは,末端の氷河等で行われたローカルな観測で示した研究例が散見されるだけであり,伝播距離数100 kmを超えるような長距離の伝播で確認した例はこれまでになかった.以上の成果から,H30年度の進捗状況は,当初の計画以上に進展していると言える.
|
今後の研究の推進方策 |
H31年度以降は,H30年度の結果を元にプログラムを高速化したうえで,専用の計算機を用いて,データ期間を延長させながら,全観測点ペアについて解析を試みる予定である.測線はトータルで300本程度になる.本課題4年間のデータを加えると,トータル10年以上のデータ長を確保できるため,位相速度の経年変化の検出精度は,倍以上に改善すると見込まれる.地震波干渉法で表面波の情報を抽出するには,ある程度長期間(数ヶ月程度)の平均化が必要であるが,最新のデータを逐次加えて平均化を行うと,タイムラグ10日程度の準リアルタイムで氷床底部の情報を抽出できる.こうした研究によって,従来のリモートセンシング技術よりも直接的かつ高い時間分解能で,氷床底部における融解モニタリングが可能になると期待される.
本課題の対象領域は,雪氷・地殻・海洋という多圏融合型の領域であるため,上記の解析に加え,以下のような解析も行い,多角的な検討を行う予定である.(1)GLISN観測網で得られた地震波走時データを用いて,地震波トモグラフィー解析を行い,グリーンランド下の地殻・マントルの3次元地震波速度不均質構造を得る.(2)氷床上の単観測点で得られた地震波形の自己相関解析から,ローカルな氷床内部状態の時間変化を検出する.(3)連続波形データから地震イベントの波形・走時データを抽出し,レシーバー関数解析や地震波トモグラフィー法によるインバージョン解析を行うことで,上部マントルを含む氷床下の3次元地震波速度構造を明らかにする.
|
次年度使用額が生じた理由 |
グリーンランドの観測旅費は毎年70万円程度と高額になるため,次年度以降の研究にかかる他の旅費や物品費を少しでも多く確保するため,使い切りは避けた.
|