2016年熊本地震では、主断層である布田川断層の破壊域の北東端には阿蘇カルデラが位置しており、この部分に着目した解析を引き続き実施した。詳細な検討をしたところ、阿蘇カルデラ断層内の小断層破壊は主断層である布田川断層とは直接つながっておらず、阿蘇カルデラ内の破壊は主断層破壊による応力変化により副次的・受動的にもたらされたと結論づけた。また、破壊が起こった深さは表層を覆う火山堆積物の厚さとほぼ一致していることも示した。本研究結果は、他の火山地域も含めて存在する小断層も「根無し」であり、周辺の大きな活断層の運動により受動的に破壊する、すなわち、小断層自体は被害をもたらすような破壊は起こさない可能性が示唆される。
また、本研究の結果から、熊本地震の断層の端にあたる阿蘇カルデラは、深部は脆性破壊を起こさない非弾性流動が卓越する領域であり、火山堆積物で構成される表層部のみが脆性破壊を(受動的に)起こすと考えられる。別の見方をすれば、阿蘇カルデラ地域は地震発生層がごく浅いということになる。このことは、以前から東北地方などで提案されていた「活断層が存在せず変形が大きい火山地域」と「活断層が存在し(普段は)変形が小さい非火山領域」の棲み分けのモデルと調和的であり、かつ、精緻化する情報を与えるものである。
前年度に実施したフィリピン断層のクリープとMw6.7の地震の発生との関係についての研究についても、フランス・イギリスの研究者と共同研究を進め、新たに断層面上のすべり(クリープおよび地震時)分布を推定し、地震すべり域とクリープ域の棲み分けについての詳細イメージを明らかにした。
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