研究課題
岩石中の微量元素は、鉱物粒界に偏析して地球内部の物理・化学的性質そのものを劇的に変化させる。そのため、微量元素の粒界における最大固溶量を定量化する事は、岩石の本質を知る上で、基本的な情報となる。岩石中の幅約1 nm以下の狭い構造体である鉱物粒界中の微量元素の最大固溶量を正確に調べるためには、粒界の実効体積が非常に高い試料の合成技術と、粒径制御技術、微量元素添加技術、試料局所領域の元素濃度分析の組み合わせが必要不可欠である。本年度は、細粒鉱物粉末の合成技術と粒成長を極限まで抑制しながら効率良く緻密化を促進するパルス通電加圧焼結を用いた鉱物細粒多結晶体の合成を組み合わせ、粒界の実効体積が非常に高い試料の合成を行った。微量元素量を~1 mol%の範囲で変化させ、続く試験に最適な添加量を評価した。合成した多結晶体試料の粒成長実験を行い、焼鈍温度に伴う粒径変化やアスペクト比の変化を評価した。微構造、添加量を高度に制御した試料を用いる事で、次年度実施予定の鉱物粒界中の微量元素の最大固溶量を高精度で測定する事が可能になる。作製したカンラン石多結晶体試料は、固溶度測定以外にも種々の地球内部物性測定(弾性、電気特性、粘性、拡散)にも活用可能な、高品質試料である。その一例として、本研究では、マイクロビッカース測定を実施し、カンラン石多結晶体の硬さの粒径と圧入深さ効果の検出及び、破壊靱性値の測定に成功した。
2: おおむね順調に進展している
カンラン石多結晶体中の微量元素の固溶度測定のため、本年度は、以下の実験を予定通り実施する事が出来た。(1)微量元素を添加した高純度・高緻密・細粒多結晶体の合成 高純度(≧99.9%)かつ細粒(50 nm)のSiO2とMg(OH)2試薬を開始物質とし、秤量後、CaOを0.4と1 mol%添加した試料とCaO無添加試料の3種類の試料を作成した。その後、(i)湿式ボールミル混合、(ii)固相反応を起こし、80 nmの鉱物の微粉末を作製するための仮焼き(iii)鉱物粉末を高い成形密度にするためのスリップキャスト成形、(iv) 粒成長を極限まで抑制しながら効率良く緻密化を促進するパルス通電加圧焼結のプロセスを行い、CaO添加量の異なる3種類の緻密(空孔率<0.01%)かつ細粒(平均粒径100 nm)の細粒カンラン石粉末を得た。(2)多結晶体の粒成長実験 作製した細粒緻密多結晶体は、粒径制御の為に、更に1200℃-1350℃の温度範囲でそれぞれ、で30分~100時間の焼きなましを行い、粒径範囲100 nmから1 μmまでの試料を作製した。作製した多結晶体試料の粒径は、走査型電子顕微鏡と透過電子顕微鏡を用い、目的とする等球状(アスペクト比1.4)かつ等粒状で、クラックやメルトを含まない試料である事を確認した。また、作製した試料においてマイクロ硬度測定を行い、地球内部物性のメカニカルデータ取得にも活用可能な試料である事を確認した。
本年度は、微量元素固溶度の定量化技術の確立を行う。試料の組成分析には、nmオーダーの高い分解能で観察、組成分析が可能なSTEM-EDXで行う。試料の粒界部分に細く絞った電子線を当て、発生した特性X強度からCliff-Lorimerによる比例法を用いて、試料の組成に直接変換する。正確な定量化のために、EPMAで組成分析を行った合成多結晶体試料を内部標準試料として用いる。ビームの広がりの影響を差し引くために、粒界領域を含む測定点から粒界の微量元素濃度を測定し、同様の測定をその粒界面に接する二つの隣接粒子でも行い、バックグラウンド濃度(結晶格子内の微量元素濃度)を測定し、差し引く事で粒界領域の不純物元素の固溶量を求める。この一連の測定を、様々な粒径の多結晶体で行う事で粒界中の元素iの最大固溶量を決める。
平成31年2月から、材料評価装置の改良工事が始まったため、測定が一定期間遅延した。装置の改良工事が終わり次第、分解能が向上した装置を用いて測定を継続する予定である。
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American Mineralogist
巻: 103 ページ: 1354-1361
10.2138/am-2018-6480