研究課題/領域番号 |
18K03799
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小泉 早苗 東京大学, 地震研究所, 特任研究員 (60792504)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | かんらん石 / 多結晶体 / 粒径効果 / 破壊靭性値 / ビッカース硬さ |
研究実績の概要 |
岩石の微量元素は、鉱物粒界に偏析して地球内部の物理・化学的性質そのものを劇的に変化させる。そのため微量元素の粒界における最大固溶量を定量化することは、岩石の本質を知るうえで基本的な情報となる。結晶粒界を対象とした研究の難しさは、粒界そのもののみを対象に出来ない点である。粒界は隣接する結晶格子が存在して初めて成立し、バルクである多結晶体試料から粒界の物性を調べるためには、粒界と結晶格子からの情報を分離する必要がある。そのためには、結晶粒径を変化させ、粒界の割合を変えた多結晶体合成技術が必須である。分析精度を上げるためには、粒界の実行体積の高い試料合成技術が必要で、そのほかにも微量元素添加技術、試料の局所領域の元素濃度分析など技術の組み合わせが必要不可欠である。本研究では、特に粒界分率の高い非常に小さい粒径(100nm)の試料合成法の確立に成功した。またこの極細粒緻密試料から約1桁にわたる幅広い粒径範囲に及ぶ試料合成を行い、粒径制御技術も確立した。作製した粒径範囲0.17 μm~1 μmの6試料の異なる粒径の試料を用いてビッカース硬さや破壊靭性値の粒径依存性を高精度に測定した。カンラン石のビッカース硬度は単結晶で9 GPaであるのに対し、多結晶体では試料の粒径が小さいほど硬度が高くなり、最も細粒の多結晶体試料ではビッカース硬度が17 GPaまで増加した。これはホールペッチ効果と呼ばれる多結晶体中の粒子のサイズ(粒径)が細かくなるほど硬度が高くなる硬さのサイズ効果で、岩石や鉱物におけるホールペッチ効果はこれまで測定例がなく、本研究によって初めて明らかになった。本年度は、作成した試料の化学組成分析及びHR-TEMによる粒界や三重点近傍の詳細観察を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
試料中の粒界分率の異なる試料を準備した。特に粒界分率が大きくなる細粒な試料について、試料の焼結条件を最適化することによって改良し、100nmを切る多結晶体の合成が可能になった。合成した試料のHR-TEM観察を行い、試料の粒界や三重点の高分解能観察を行い、細粒(<100 nm)緻密(空孔率<0.1%)かつメルトおよびクラックフリー試料であることを確認した。最も細粒な試料について硬さおよび破壊靭性値測定を行い、Koizumi et al 2020でモデル化した、硬さの半経験則が低粒径側でも成立することを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度新規に合成法を確立した細粒のカンラン石多結晶体を含む100nmから1μmまでの範囲で6種類の異なる粒径のカンラン石試料において微量元素固溶度の定量化を行うために引き続きTEM-EDXを用いた高分解能測定を行う。試料の粒界部分に細く絞った電子線を当て、発生した特性X線強度からCliff-Lorimerによる比例法を用いて試料の組成に直接変換する。
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次年度使用額が生じた理由 |
緊急事態宣言による入構や機器利用制限のため。
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