研究課題/領域番号 |
18K03800
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
隅田 育郎 金沢大学, 地球社会基盤学系, 准教授 (90334747)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 火山 / 玄武岩質マグマ / 空振 / 地震 / 気泡上昇 / 誘発噴火 |
研究実績の概要 |
今年度はマグマからの脱ガスに焦点を充てた研究を行った。研究は以下の2つからなる:(1)ストロンボリ式噴火を想定した粒子を含む粘性流体の気泡上昇と空振励起:流体が含む粒子の体積分率、注入する気泡体積を可変パラメータとして実験を行い、破裂時に励起される空振の波形解析を行った。その結果、(a)気泡の膜振動を起源とする高周波数の振動、(b)気泡の開口部で励起されるヘルムホルツ共鳴、の2つの異なる励起メカニズムがあることが分かった。(a)から(b)への遷移は、気泡上昇に伴う気泡膜の変形速度が流体粘弾性の緩和速度よりも速くなり、粘性流動から脆性破壊へ遷移することが原因であると解釈した。さらに液面を下げるとヘルムホルツ共鳴に加えて、気柱共鳴が励起されること、ヘルムホルツ共鳴の減衰率よりも気柱共鳴の減衰率が小さくなると、気柱共鳴が卓越することを示した。(2)ハワイ式噴火を想定した低粘性マグマ中の気泡上昇と空振励起:ニュートン流体中の気泡流について(1)の実験で用いたマイクロフォンに加えて、新たにハイドロフォンを液中に設置して、これら両方を用いて実験、解析を行った。その結果、流量が増すと励起される音波のパワーが増大するばかりでなく、周波数スペクトルが広帯域になることを示した。さらに気泡が液面に近づく際に周波数が時間の経過と伴に高くなる周波数グライディングが発見された。この現象は気泡が固有振動していて気泡が上昇して液面に近付くと、振動する液体に質量が減少するためと定量的に説明される。液体の粘性率と気泡流の流量を変えた実験を行い、上記の現象は無次元のレイノルズ数が1のオーダーよりも大きい場合に発生することを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は研究実績に記した脱ガス過程に集中して研究を行った。 (1)ストロンボリ式噴火を想定した気泡上昇と空振励起:実験と解析の主要な部分は昨年度終えた。今年度の重要な進展は、レジーム遷移を無次元のデボラ数を用いて説明したこと、用いた流体のレオロジーの追加測定、解析を行ったこと、阿蘇山で観測された空振の特徴的な周波数が本実験と同じメカニズムで励起されている可能性があることを定量的に示したこと、である。以上の進展を含めて論文を執筆し、投稿した。成果はJpGU 2020で発表予定である。 (2)ハワイ式噴火を想定した低粘性マグマ中の気泡上昇と空振励起:ニュートン流体中の気泡流について(1)の実験で用いたマイクロフォンに加えて、新たにハイドロフォンと液中に設置して、両方を用いて実験、解析を行った。ハイドロフォンは気泡の近接場において、気泡の破裂前後の音波励起を捉えるために有効であることを示した。(2)の研究成果は卒業論文としてまとめられた。 次年度は振動台を用いた実験、解析を卒業研究として再開する。そのための実験の準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は振動が減圧発泡を促進するかという問いに答えるために初年度行った振動台を用いた実験を再開する。初年度は水で飽和した準2次元のガラスビーズ層を鉛直と水平の両方向に振動させ、粒径、加速度、周波数をパラメータにして発生する不安定現象のレジームダイアグラムを作成した。そして選定された粒径、振動条件下で間隙水圧と全圧の予察的な測定を行い、水平振動下でのみ負圧が発生することを示した。これらの実験を踏まえて、火山の火道をモデル化するために円柱状の3次元の系で実験を行う。円柱状の系では、粉粒体の荷重の一部は壁面で支えられ(ヤンセン効果)、鉛直振動下における底面における圧力の振動加速度に対するスケーリングが求められている。しかし、水平振動下また液体を含んだ場合については調べられていない。本年度は初年度と異なり、粉粒体層の厚さを変えて振動実験を行い、底面における圧力、間隙水圧の振動の加速度、周波数に対するスケーリング則を求め、起きる現象のレジームダイアグラムと負圧が発生する条件を制約し、説明する物理モデルを作成する。得られた法則を用いて、マグマで負圧が発生し、発泡が起きる条件を制約する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実績に記したように本年度は以下の2つに焦点を充てた研究を行った。(1)粒子を含む粘性流体中を上昇する気泡が励起する空振とその解析、阿蘇山において観測された空振の解析、をまとめた論文の執筆と投稿。(2)ハワイ式噴火をモデル化した気泡流が励起する音波の実測とそのモデリング。これら2つの研究を遂行するためは既存の設備で可能であったため、次年度使用額が生じた。 本年度は振動台を利用した実験を再開するため、次の用途のために科研費を用いる。振動台実験では2台の高速カメラを用い、異なる方向から撮影を行う。2019年に1台が故障し、修理できないことが分かったため、新たなに高速カメラを1台購入する。また圧力センサー、間隙水圧センサーが経年劣化しているため、新たに購入する。新しい円筒型の装置を金沢大学技術支援センターで作成するための材料及び工作のために用いる。本実験ではこれまで粒子としてガラスビーズを用いてきた。(1)の研究のように、屈折率が液体と合致する粒子を用いれば、間隙流体の流れの可視化ができる。これを実現するために、アクリル粒子など、適切な粒子を購入する。
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