研究実績の概要 |
地震は,断層すべりによる剪断破壊現象であり,この断層すべりを通じて周辺域に蓄えられた応力(弾性歪エネルギー)を解放する物理過程である.このことは,地震の発生を理解するためには,絶対応力場の情報が必要不可欠であることを意味する.本年度は,絶対応力場を考慮して地震の発生を理解するために,弾性歪エネルギーを用いた新しい地震破壊規準の開発を行った(Terakawa et al., 2020).この成果と,昨年度の成果である1992年ランダース地震震源域の絶対応力場の情報を組み合わせて,ランダース地震による地震活動度の変化を評価し,地震活動の活発化を支配した物理メカニズムを考察した. 一方,2016年熊本地震震源域周辺の絶対応力場を推定するための準備として,まず,本震前の広域応力場のパターン推定した.具体的には,1996年1月1日~2016年4月13日までの地震のメカニズム解5306個(Matsumoto et al., 2018; F-net MTカタログ)をCMTデータインバージョン法(Terakawa & Matsu'ura, 2008)に適用し,九州地方の広域応力場(lon:130-132度, lat:31-34度, depth:0-100 km)のパターンを推定誤差と共に求めた.次に,熊本地震本震(Mw 7.0, 2016年4月16日発生)及び最大前震(Mw 6.1, 2016年4月14日発生)のすべり(Asano & Iwata, 2016)による応力変化を推定した.この計算において,媒質の構造は弾性体の下に粘弾性体が広がる2層構造とし,Asano & Iwata (2016)の速度構造を参考に設定した.応力変化の計算には,弾性体のすべり応答関数(Fukahata & Matsu'ura, 2005)を用いた.
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