東北日本における先行研究で、深発地震から前弧側に到達するP波に低周波と高周波の時間差が観測され、その特性がプレート内にmetastable olivine wedge(MOW)と思われる低速域の存在を支持していた。本研究では、深発地震から前弧側に到達するP波を、南千島・東北日本弧、小笠原諸島弧、トンガ・ケルマデック諸島弧で調査し、これら地域でも類似した観測があることをみつけた。類似する低速域が他の地域にもあることを示唆する。一方で、その観測は常に見られるわけでなく、観測点、震源にわたるプレート形状に依存する。その観測が見られないことがMOWの低速域の存在を否定できないこともわかった。
本研究では、過去に自身でS波速度超破壊伝播の深発地震をみつけた南千島地域を対象に、深発地震の断層ずれ伝播の詳細決定の可能性を探った。S波速度超破壊伝播の証拠となったP波の特徴は、他の深発地震にはみられず、プレート内外の構造起源でないことが改めて裏付けられたが、本地域の深発地震の日本でのP波波形は、構造の影響を受け、地震によって変化し、断層ずれ伝播決定に経験的グリーン関数法の適用は難しいことがわかった。しかし、本研究の最終2年度で、この地震によって変わる波形に、別の発見をすることに成功した。日本の観測網では、660km不連続によるP波のtriplicationが予想され観測される。特筆すべきは、その後に別のtriplicationと思われるP波を発見したことである。観測される場所は特定の地域に限られず、アレイ解析は深部から伝播した波であることを示す。二重の660km不連続が示唆され、マントルの化学組成や660km不連続周辺での現象を拘束する可能性がある。660km不連続がオリビンの相分解による場合、それ以深にMOWを予想しない。最深の深発地震がどこでどの深さで起きるかにもつながるものである。
|