研究課題/領域番号 |
18K03803
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大倉 敬宏 京都大学, 理学研究科, 教授 (40233077)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 阿蘇カルデラ / 熊本地震 / レシーバ関数 / 地震波干渉法 / マグマ溜まり / 地殻変動 |
研究実績の概要 |
本課題では、阿蘇カルデラにおける大規模カルデラ噴火の準備過程を解明するため、地殻深部にどのようにマグマが蓄積され、そして地表にマグマがどのように移動していくのかを地震学的にとらえるための観測研究を実施している。今年度は、阿蘇カルデラ内の既設臨時地震観測点3か所のテレメータ化を実施するとともに、地震波形データ解析ワークステーションと計算用ソフトウェアを導入し、レシーバ関数(RF)解析および地震波干渉法によるデータ解析の環境を整備した。そして、2009年以降に観測された遠地地震波形の整理を行い、RF解析のためのデータセット作成を一部実施した。 また、阿蘇カルデラ内外の地震波形データに地震波干渉法を適用して、2観測点間の波形の相互相関を求め、2点間を伝播する表面波を検出した。そして、表面波トモグラフィーを実施することで、阿蘇カルデラ内の浅部S波速度構造を求めた。その結果として、阿蘇火山の中央火口丘群の地下5~6kmにマグマ溜まりに対応する低速度領域が、地下1~2.5kmには熱水だまりに対応する低速度領域がそれぞれ見出された。そして、それらを繋ぐような縦長の低速度構造も検出された。また、3~5kmの深さには固結した貫入マグマに対応するような高速度領域が検出された。この解析により表面波位相速度の時間変化から構造の時間変化を検出際に参照とすべき初期構造が求められたことになる。 また、熊本地震の断層運動による阿蘇火山のマグマだまりへの影響評価をおこなうため、2018年10月に実施された水準測量データおよび熊本地震前後のGNSS観測データを整理し、熊本地震時に生じた地殻変動を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
阿蘇カルデラ内外の常設地震観測点では、順調に観測がおこなわれている。また、阿蘇カルデラ内の現地収録式臨時観測点にソーラーパネル、バッテリー、テレメータ用通信機器を予定通り設置し、リアルタイムあるいは10分遅れのデータを火山研究センターで受信出来るようにした。これにより、レシーバー関数解析のための準備作業の効率化が予定通り図られた。また、予定通り、レシーバー関数解析や地震波干渉法による表面波位相速度決定を実行するための計算機環境を整備した。 過去の遠地地震データの解析に関しては、解析対象の地震の選定が終わっており、波形切り出し作業が順次行われている。 さらに、阿蘇カルデラ内外のGNSS観測点も順調に稼働している。 RF解析自体は予定よりやや遅れているが、その代わりとして、2年目以降に実施予定であった地震波干渉法による表面波トモグラフィーを実施した。したがって、総合的には本研究課題はおおむね順調に進捗していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
阿蘇カルデラにおける大規模カルデラ噴火の発生ポテンシャルを評価するために、マグマだまりの時間変化抽出のための地震観測とデータ解析を実施する。そのため、H31年度およびH32年度には以下の2点を実施する。 (1)遠地地震のレシーバ関数(RF)解析によるS波速度構造の時間変化の検出 阿蘇カルデラ内外の地震観測点でえられた遠地地震のレシーバ関数解析によるS波構造推定をおこなう。そして、その構造(マグマ溜まりの体積や地震波速度)の時間変化検出を目指す。構造に大きな変化がなくても、低速度領域(マグマだまり)上面における変換波のの振幅が時間変化するかどうかを調べ、マグマ溜まりのS波速度の時間変化をモニターする。 (2)地震波干渉法に表面波位相速度変化の検出 低速度領域(マグマだまり)を挟む2観測点の波形データから地震波干渉法(Draganov et al., 2007)により観測波形の相互相関をもとめ、表面波を検出する。この検出を期間を分けて実施することにより。表面波の位相速度の時間変化検出をおこなう。時間変化が検出された場合は、位相速度の変化量から地震波速度の変化量をもとめる。
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