研究実績の概要 |
2016年熊本地震前後の、阿蘇カルデラ深部(深さ約10km)の低速度領域(Abe et al.,2017)のS波速度構造の時間変化を検出するため、2012年7月から2022年3月までに、阿蘇火山から震央距離30度以上90度以内で発生したマグニチュード5.5以上の遠地地震の波形に、Shibutani(2008)の 時間拡張マルチテーパ法を用いてレシーバ関数を作成した。その結果、低速度領域の境界で屈折した波の振幅には、誤差を越える時間変化は検出されず、この期間には速度構造の変化が引き起こされていないことが推定された。 熊本地震の際には、InSAR データの2.5 次元解析により得られた準上下成分やGNSS 観測点の変位には、阿蘇火山周辺において最大400mmの沈降がみられた。この地殻変動の火山活動への影響を評価するため、いくつかの震源断層モデルについて、地形や地殻媒質の不均質を考慮した有限要素法モデルを用い、断層すべりが阿蘇火山のマグマだまり(深さ約6km)や低速度領域に与える変位を計算した。その結果、観測された沈降を説明するためには、カルデラ内西部に南東落ちの正断層成分をもつ断層モデルが必要であることが明らかになった。この断層運動により前述の低速度領域では7×10^8m^3程度の収縮が引き起こされることが、有限要素法シミュレーションから明らかになった。しかし、この体積変化量は約9万年前のカルデラ噴火時のマグマ噴出量(6×10^11m^3)と比べると非常に小さい値である。したがって、熊本地震本震の断層運動だけでは、カルデラ噴火をトリガーするには不十分だったと考えられる。一方この断層での変位により、マグマだまりの体積は0.06% 増加するするのみであることも明らかになった。このわずかな変化量では、中規模以上の噴火(VUI2以上)のトリガーとしても不十分だったと考えられる。
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