研究課題
地質時代の気候に対して太陽活動が影響を及ぼした痕跡から、そのメカニズムの解明をめざし、千葉セクションコアTB2、水月湖年縞堆積物コアFukui-SG14、大阪湾1700mコアの古環境分析を行った。本研究代表者らは、これまで地磁気逆転時の地磁気強度減少期間に銀河宇宙線が増加し、増加した下層雲の日傘効果で寒冷化した地質学的証拠を見つけている。本研究では銀河宇宙線の気候への影響の普遍化を目指して、銀河宇宙線量を制御している太陽活動の気候への影響を調べた。さらに、銀河宇宙線を介した寒冷化をもたらす可能性がある地磁気エクスカーションの探査も行った。コアTB2では生物生産量に約200年の太陽活動周期卓越区間を含む深度35.79m~37.49mから計130個の試料を採取し、10Beの堆積物中濃度を測定した。10Beの測定は東京大学タンデム加速器研究施設(MALT)を利用して行った。その結果、生物生産量(気温)の変化は銀河宇宙線量の指標である10Be量と、一部の期間を除き、逆相関を示すことが分かった。コアTB2で200年周期卓越期間について、大阪湾1700mコアに加え、摩耶コアも高密度間隔で花粉分析を行った。その結果、温暖な気候を好むアカガシ亜属の産出率がコアTB2の生物生産量変化とほぼ同期して変化し、200周期が卓越するTB2の生物生産量変化は気候(主に気温)変化を反映していることが分かった。上記以外に、コアFukui-SG14に更新世末のエクスカーションを発見した。また、地磁気逆転期に雲の日傘効果で冬季モンスーンが強化した論文を公表した。
1: 当初の計画以上に進展している
花粉分析データを増やしたことで、気候データの解像度が約50年まで上がり、コアTB2の生物生産量変化に見られた200年周期が気温変化を反映していることが明らかとなった。しかも、200年周期が8回連読する中で、その中央で起こる突然の生物生産減少に対応した気温低下がみられ、北大西洋の氷山流出イベントがもたらしたことが原因の可能性がより強まった。さらに、これら二つのデータの200年周期卓越変動が10B濃度変化ときれいな逆相関を示す一方で、突然の生物生産減少・気温低下イベントに対応した10Beの増加が見られないことからも、このイベントが太陽活動が関係しない氷山流出イベントであることを示唆する。このように、氷山流出イベント発生時を除けば、生物生産量(気温)と10Be量、すなわち銀河宇宙線量がきれいな逆相関を示し、約200年の卓越周期は太陽活動のde Vriesサイクルに近い。したがって、太陽活動がスベンスマルク効果を介して気候(主に気温)に影響を及ぼした可能性が高いと結論できる。800年間の気候変化を太陽活動による成分と、北大西洋の氷山流出イベントによる成分に分離できたことは予想以上の成果である。また、データの質の高さを改めて確信する結果となった。地磁気逆転期の寒冷化の期間、冬季モンスーンが強化したことを中国レスの分析によって明らかにし、寒冷化の原因は銀河宇宙線が誘起した雲の日傘効果であることを実証した。この成果はScientific Reportsに公表した。この論文の2019年中のdownload数23204回は、Scientific Reports誌が2019年に公表した全分野の論文(>19871編)中のトップ100にランクインし、地球・環境科学分野(>769編)では第2位であった。銀河宇宙線が気候に影響を及ぼしたが大きく注目されたことは、計画にはなかった大きな成果である。
10Beを用いた太陽活動の検出は、コアTB2においてすでに完了し、大成功をおさめることができた。最終年度は、大阪湾1700-mコア、摩耶コアの花粉分析結果と合わせて、太陽活動が気候に影響を及ぼすメカニズムについて考察し、国際誌に論文を投稿する。これまでに大阪湾1700mコア試料についても、10Be濃度の分析データを取得済みなので、地磁気逆転期の地磁気強度減少期の10Beの増加と気候の寒冷化の対比を行う。コアTB2の地磁気逆転とその直後の温暖化、銀河宇宙線の影響について、中国黄土高原のデータとの比較研究を行う。Lingtaiのレス層の詳細古地磁気データを解析し、地磁気逆転のタイミングと夏季モンスーン、冬季モンスーンに見られる千年、百年スケールのイベントとの関係を調べ、銀河宇宙線の関わり方を明らかにする。水月湖年縞堆積物コアFukui-SG14について、LL-channel試料を用いた過去5万年間の詳細古地磁気分析データを解析し、この間起こったすべての地磁気エクスカーションを検出する。また、不足している同コアの岩石磁気実験を行い、磁化を担う磁性鉱物の特定を行い、古地磁気データの質を高める。そして、同湖のコアSG06で出されている、14C濃度、花粉化石群集データと比較して、地磁気エクスカーションが銀河宇宙線を介して気候に影響を及ぼした証拠を出す。
予算が余ったのは、3月下旬に計画していた水月湖堆積物コアの岩石磁気分析実験のための出張が新型コロナウイルス蔓延のためできなくなったことが理由である。同実験は、緊急事態宣言が解除されしだい、また、実験予定の全国共同利用施設の高知大学海洋総合研究センターが共同利用業務を開始しだい行う予定である。新型コロナウイルスの影響は学会活動にもおよび出張が困難となるため、次年度予算50万円は論文投稿・出版に費やされる。昨年実績から見積もって、同レベルの雑誌に投稿すると、1論文当たり英文校閲(初稿+修正)と掲載料に23万円かかる。最低2編の論文を投稿予定である。残りは、パソコン等消耗品の経費とする。
上記すべて神戸大学広報課が作成または関与している。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 1件) 備考 (4件)
Journal of Geopysical Research
巻: 125 ページ: 1-21
10.1029/2019JB018705
Science
巻: 367 ページ: 210-214
Scientific Reports
巻: 9 ページ: 1-8
doi.org/10.1038/s41598-019-45466-8
https://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2019_06_28_01.html
https://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2020_01_16_01.html
https://www.eurekalert.org/pub_releases_ml/2019-07/ku-5070319.php
https://univ-journal.jp/26689/