研究課題
令和2年度前半は、水月湖の古地磁気データの整理と解析を行い、約4万年前に起こったラシャン地磁気エクスカーションを発見した。また、岩石磁気データを解析して、同エクスカーションはmagnetiteが担う初生磁化が記録していることを実証した。さらに、水月湖年縞堆積物から出されているΔ14Cが大幅に増加した極大期、すなわち銀河宇宙線量の極大期と一致することも発見した。すなわち、同じ湖の堆積物から地磁気強度の減少により地磁気エクスカーションが起こり、同時に銀河宇宙線が大幅に増加した証拠を世界で初めて示すことに成功したといえる。また、14C年代補正の世界標準データを提供している水月湖年縞堆積物からエクスカーションを発見したことで、世界で初めて同エクスカーションの正確なIntCal20年代を決めることにも成功した。得られた年代は、今後世界標準となると思われる。令和2年度後半は、水月湖から得られたラシャン地磁気エクスカーションの地磁気方向変化の挙動を解析した。その結果、エクスカーション期間中、地磁気方向は100年以下の短期の振動を繰り返すこと、磁極(VGP)は振動しながら、地球上の4か所にクラスターを作り、その4つのクラスターの活動期は時計回りに異動していくことを発見した。堆積速度が速い水月湖堆積物の記録が低堆積速度の堆積物に記録された場合の磁化を計算した結果、これまでのラシャンエクスカーションの磁場変動の特徴はすべて再現できることも明らかにした。これらの成果をまとめ国際誌への投稿をめざし論文を執筆した。
2: おおむね順調に進展している
大阪湾1700mコアの花粉分析データおよび10Be分析データ、千葉セクションのコアTB2の10Be分析データはコロナ禍の前に取得済である。水月湖のコアSG14の古地磁気・岩石磁気データも取得済みである。水月湖のデータからは、地磁気強度減少期に銀河宇宙線が増加した明確な証拠を得ることができ順調である。地磁気エクスカーションの磁場変動の特徴は予想していなかった大きな成果であり、当初の計画以上としてもよいくらいであるが、論文投稿が令和2年度内にできなかったので、おおむね順調に進んでいると評価した。
水月湖年縞堆積物が示すラシャン地磁気エクスカーション記録は、従来のデータの2倍以上の高解像度であり、しかも水月湖のデータであるので年代精度は世界一高いといえる。さらに、地磁気逆転と共通する性質を示していることから、地磁気ダイナモの議論を加えて論文としてまとめ国際誌に投稿する(6月中)。7月以降は、千葉セクションコアの一部の試料について磁気分析データを追加し、大阪湾堆積物コアと千葉セクション堆積物コアのデータをまとめ、論文を執筆する。これまでに、気温と銀河宇宙線量(10Be)の指標が約200年周期で同期して変動することを見つけているので、銀河宇宙線を介して起こる太陽活動と気候変化の相関をを中心にまとめる。こちらも、今年度内に国際誌に投稿する。
全国共同利用施設がコロナ蔓延のため利用できず、振動型磁力計など先端設備を用いた堆積物コア試料の磁気分析ができなかったため。また、令和2年度内に予定していた論文の投稿が遅れたことも理由である。令和3年度は、千葉セクション堆積物コア、大阪湾堆積物コア、水月湖堆積物コアの岩石磁気分析を行う。一部の試料については全国共同利用施設の高知大学海洋コア総合研究センターに出張して実験を行う(4泊5日×2回)。論文2編を国際学術誌へ投稿する。そのための英文校閲も行う。
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Annales Societatis Geologorum Poloniae
巻: 91 ページ: 1-10
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Progress in Earth and Planetary Science
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