研究課題
作年度水月湖年縞堆積物の古地磁気から発見したラシャン地磁気エクスカーションと新規に発見したエクスカーション(ポストラシャン(スイゲツ)エクスカーションと命名)の証拠固めの実験、従来の記録との違いの解明、宇宙線量増加との位相関係調査を行った。水月湖のラシャンエクスカーションは概ね相対古地磁気強度の極小期かつ宇宙線指標(Δ14C)の極大期に起こっている。後者については詳しく見ると10~300年の遅れが生じているが、これは炭素の大気海洋循環で説明できることを明らかにした。これまでの深海底堆積物からの報告と異なり、水月湖のラシャンエクスカーションは数十年スケールの方向の振動が卓越する特徴をもつ。この違いは、堆積速度とサンプリング間隔、磁気測定試料の厚さで決まる基礎解像度の違いで説明できることを、フィルター理論を用いてシミュレーションして証明した。同時に、水月湖の堆積速度を深海底なみに下げれば、世界各地の深海底堆積物のラシャンエクスカーションとほぼ一致することも示し、双極子磁場が卓越していたことも証明した。さらに、基礎解像度21年の水月湖堆積物のラシャンエクスカーションの仮想地磁気極が世界の火山溶岩が記録した同エクスカーションの仮想地磁気極と一致することも双極子磁場卓越の証拠として追加した。年縞堆積物の特徴を生かし、地磁気極の移動速度を年数で見積もり、反転に近い大移動が18~45年で複数回起こったことも明らかにした。これらの成果は、Communications Earth and Environmentに公表した。千葉セクションコアTB2の分析で得た10Beデータとすでに得ている古海洋データの詳細な対比を行い、銀河宇宙線の指標である10Beと生物生産量指標Ca/Tiと海底環境指標S/Tiが部分的に強い相関を示すことが分かった。今後、周期性も調べ太陽活動との関係を明らかにする。
2: おおむね順調に進展している
水月湖年縞堆積物コアSG14の古地磁気分析により約42000年前と39000年前に起こった地磁気エクスカーションを発見した。どちらも地磁気強度極小期、かつ銀河宇宙線量極大期に起こっていた。また宇宙線量の指標Δ14Cと古地磁気強度の時間変化の位相を調べ、炭素の大気海洋循環によるΔ14Cシグナルの遅れを明らかにした。これらはいずれも当初予想した以上の成果である。チバニアン期初期の古気候変動、銀河宇宙線量変動を調べるための、大阪湾1700mコアの花粉分析データと10Be分析データ、千葉セクションのコアTB2の10Be分析データはコロナ禍の前に取得済である。完新世の古地磁気・古環境変動を調べるための水月湖のコアSG14の磁気データもほぼそろっている。各コアとも、全国共同利用施設の先端設備を用いて取得する予定だった岩石磁気データがコロナ禍のためそろっていない。そのため、おおむね順調に進んでいると評価した。
千葉セクションコアの一部の試料について磁気分析データを追加し、大阪湾堆積物コアと千葉セクション堆積物コアのデータをまとめる。そして、平均解像度約13年の10Beデータ、同45年の花粉化石群集データ、同10年の海表面生物生産量データ・海底環境データを用いて、チバニアン期最初期の気温、降水量、銀河宇宙線量、古海洋変動の相関、周期性を調べ、銀河宇宙線を介して起こる太陽活動と気候変化の相関の有無、ある場合にはそのメカニズムについて議論する。今年度内に論文をまとめ国際誌に投稿する。水月湖年縞堆積物から完新世を含む過去2万年間の古地磁気、環境磁気データを取得済である。古地磁気データからは東アジアの完新世の永年変化と調和した地磁気永年変化が得られていることは把握している。さらに、約17000年前にエクスカーションが見つかった。これはTianchi Excursionに対比できる可能性がある。これら古地磁気を中心に過去2万年間の地磁気変動として成果をまとめる。さらに水月湖の環境磁気データと、公表済みの世界の10Be、Δ14Cとの相関、周期性を調べ、太陽活動の影響の可能性を調べる。これらの成果は論文にまとめ順次公表していく。
全国共同利用施設がコロナ蔓延のため利用が制限され、振動型磁力計など先端設備を用いた堆積物試料の磁気分析ができなかったため。繰り越した予算は、岩石磁気分析のための全国共同利用施設への出張旅費に使用する。
神戸大学広報課が行った、研究成果論文に関する記者発表記事が大学HPにResearch Newsとして公開された。
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Communications Earth & Environment
巻: 3 ページ: 1-10
10.1038/s43247-022-00401-0
https://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2022_04_08_01.html