研究課題/領域番号 |
18K03805
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
浦川 啓 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (30201958)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 流体核 / 惑星磁場 / Fe-S系 |
研究実績の概要 |
惑星の固有の磁場は流体コア内の対流で駆動されるダイナモによって維持されている。ガニメデや水星のダイナモ発生には組成対流が重要な役割を果たしていると考えられている。組成対流は流体コアの冷却に伴う固化によって起こる。コアが上部から固化するのか,または下部から固化するのかという固化モードの違いと固化した相と液相の密度差によって,異なるタイプの組成対流が発生する。コアの断熱温度勾配と融点勾配の大小が固化モードを決める。断熱温度勾配が融点勾配より大きいとコアは上部から固化し,逆の場合は下部から固化する。 本研究はFe-FeS二成分系をコアのモデル組成として,コアの融点勾配(Fe-FeS系リキダスの圧力勾配)と断熱温度勾配から固化モードの圧力・組成依存性を明らかにすることを目的としている。これまでにSPring-8において放射光を用いたX線吸収密度測定を行い,Fe-FeS系についてメルトの熱膨張率を3.5GPaの圧力で決定した。このデータから核内部の断熱温度勾配に拘束を与えることが可能となる。また,6GPaにおけるFe-FeS系のリキダスを高温高圧試料回収実験から決めた。とくに,共融点よりSに富む領域では,今回の結果が高圧下のリキダスに対する初めてデータとなる。この結果は核を構成する液体鉄合金の融点勾配を決める上で重要である。以上のように,ガニメデや水星などの比較的小さな天体の核について,その固化モードを検討する基礎データが集まりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画に従い,高圧下のX線吸収密度測定から得られた密度データから,Fe-FeS系メルトの熱膨張係数を明らかにした。このデータは核の断熱温度勾配を決定する上で,最も重要なパラメーターである。また,核を構成する鉄合金の融点勾配についても,当初計画に従い高温高圧試料回収実験からまず6GPaにおいてFe-FeS系のリキダスを明らかにした。特に共融点よりSに富む領域について融点勾配に制約を与えたことは,研究の大きな前進である。このように,研究の進捗状況は,概ね当初計画に沿って進んでおり,最終目的である小型の天体の核の固化モードの解明に着実に近づいている。
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今後の研究の推進方策 |
核の断熱温度勾配を決定する上で,最も重要なパラメーターである鉄合金メルトの熱膨張係数について実験データを得ることができた。次に行うことは,熱力学モデルを用いた解析から,Fe- S系メルトの熱膨張率の温度・圧力・組成依存性を定式化することである。 また,核を構成する鉄合金の融点勾配についても,引き続きFe-FeS系のリキダスに関する実験的研究から制約を与える。共融点よりSに富む領域については6GPaに引き続き10GPaで実験を行う。また,15GPaでFe-FeS全領域のリキダスを調べ,過去のデータにあった不一致についても再検討する。Fe-FeS系のリキダスについては,さらに熱力学モデルを用いて解析を行いリキダスの圧力依存性の定式化を目指す。 これらのデータに基づき小天体のコアがどのように固化していくのか,そしてどのような組成対流が起きうるのかについて検討を行う。そして,ガニメデと水星の磁場の起源,月や火星の初期に存在した磁場の起源と進化について研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額ができた理由は,当初購入予定であった工作機器について,手持ちの工作機器の修理を行った結果十分な精度が出ることが確認されたため購入を取りやめたからである。この予算は,高圧実験を実施するに当たり必要不可欠な超硬合金アンビルの消耗が激しいことから,研究を遅滞なく遂行するために超硬合金アンビルの購入に充てる予定である。
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