研究課題
惑星の磁場は流体コア内の対流で駆動されるダイナモによって維持されており,ダイナモ発生には組成対流が重要な役割を果たしていると考えられている。組成対流は流体コアの冷却に伴う固化によって起こる。コアが上部から固化するのか,または下部から固化するのかという固化モードの違いと固化した相と液相の密度差によって,異なるタイプの組成対流が発生する。固化モードは,コアの断熱温度勾配と融点勾配の大小関係で決まる。断熱温度勾配が融点勾配より大きいとコアは上部から固化し,逆の場合は下部から固化する。本研究はFe-FeS二成分系をコアのモデル組成として,コアの融点勾配(Fe-FeS系リキダスの圧力勾配)と断熱温度勾配から固化モードの圧力・組成依存性を明らかにすることを目的としている。これまでにSPring-8において放射光を用いたX線吸収密度測定から求めたFe-Ni-S系メルトの密度データの熱力学解析から,3GPaにおけるFe-Ni-S系メルトの密度の組成・温度依存性と熱膨張率の組成依存性を明らかにした。このデータから小天体の核内部の断熱温度勾配に拘束を与えることが可能となった。一方, Fe-FeS系のリキダスについては高温高圧試料回収実験から研究を進めており,高圧下におけるリキダスの精度を上げて,精密な惑星核の融点勾配を決めつつある。以上のように,ガニメデや水星などの比較的小さな天体の核について,その固化モードを検討する基礎データがあらかた収集できた。
2: おおむね順調に進展している
当初計画に従い,高圧下のX線吸収密度測定から得られた密度データの熱力学解析から,Fe- S系メルトの熱膨張率の圧力・組成依存性を定式化した。融点勾配については,昨年度決めたFe-FeS系のリキダスが実験中の化学的コンタミネーションの影響を受けていたので,再実験を行い6GPaにおけるFe-FeS系のリキダスを決定した。リキダス決定において,当初計画から若干の遅れはあるものの,研究は概ね順調に進捗している。
これまでの研究から,核の断熱温度勾配を決定する上で最も重要なパラメーターである鉄合金メルトの熱膨張係数についてFe-Ni-S系において組成依存性を定式化した。次に経験的関係式を用いた解析から,その圧力依存性について検討する。また,鉄合金の融点勾配についても,引き続きFe-FeS系のリキダスに関する実験的研究から制約を与える。3GPaと10GPaでの急冷回収実験による研究から,特に共融点よりイオウに富む領域のリキダスの圧力依存性に焦点を当てて研究を進める。最終的目標は熱力学モデルによるFe-FeS系のリキダスの圧力依存性の定式化である。これらのデータに基づき小天体のコアの固化モードの組成・圧力依存性を明らかにして,核の組成対流の様式について検討し,ガニメデと水星の磁場の起源,月や火星の初期に存在した磁場の起源と進化について研究を進める。
当初計画では2年度目に海外での研究発表を計画していたが,大学の管理運営及び学務の関係から実行できなかった。最終年度に実施する予定である。
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Journal of Geophysical Research
巻: 124 ページ: 2272-2293
10.1029/2019JE005936
Comptes Rendus Geoscience
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doi.org/10.1016/j.crte.2018.04.005